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今回は少しの間だけ引っ張ってた掲示板のネタも詰め込んでみました。つまり小話が思った以上になかったのです。
※なんかひょっとしたらぼくいもパロがあったような気がしたんだけどどっかいってしまいました。
* 泣かない僕と泣けない君のほんの些細な責任転嫁
「私が落ち込んでるのは君のせいじゃない」
膝を抱えて微動だにしないまま、淡々と彼女はそう言った。声は辛うじて震えているようで震えていない。彼女の声なら、意図的に震わす事も、泣き声を上げる事も容易いだろうに。けれど彼女はそうしなかった。くぐもっているのは恐らく、膝を抱えて突っ伏しているからだろう。物理的な事だ。
「だから早く何処か行ってくれないかな?そこに居られると凄く迷惑なんだけど」
君に責任は無いんだから、これ以上責任に関わろうとしないでよ。
そう言った声もまた、くぐもっていた。彼女でも落ち込むことがあるのだと、不謹慎ながらもそう僕は考えた。苛々と握り締められた爪先の、形の良い爪が歪んで白くなる。
「あーもー何時までそこにいるつもりなのかなっつってんじゃん!遠回しに言ってる時点で気付いてくれる空気読めないなあ!ウザいんだけどそういうの!何様のつもりなの、たまたま元の型が同じだったからって私の事分かったつもりにならないでよ!」
不意に立ち上がった彼女が、ボーカロイドの命とも呼ぶべき声を荒げて、おまけにヘッドセットまで僕に投げ付けて叫んだ。壊れたら一体どうするつもりなんだ。危うく受け止めたそれに気付かれないよう安堵の息を吐いて、僕はようやく溜息混じりに「ミク」と彼女の名前を呼ぶことが出来た。それが彼女の意識をより逆撫でしても、彼女がそれを望んでる気がした。
「うるさいうるさいうるさいうるさい!耳障りだし目障りだよ!なんで私がこんな事まで君の為に叫んであげなきゃいけないわけ!?いらないんだよ、消えてよ!私をどっかの反響音と一緒にしないで!!」
ミクは叫んだ。隅々まで手入れの行き届いた綺麗な髪を振り乱し、荒げてなお澄み渡るような高い声で辺りを突き刺して(しかしそれを決して他のものにはぶつけないのだから、やっぱり君はやさしい人なんだね)そうすることで、彼女は嗚咽の代わりにしていた。泣けない彼女と泣かない僕。そうだね、と僕は頷く。君に必要なのは慰めじゃない。それくらいちゃんと知ってるよ。僕は君と違うから。
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クオミクに転ずる直前(※重要)のミク嬢とクオちゃん。
* 雨
「雨だ、」
しとしとと降り注ぐ雨が叩く窓硝子を、内側から白い指がこつりと叩いた。こつ、こつ、と小気味良い音が、ゆっくりと断続的に続く。
「雨だよ、」
振り返った少女に、そうだな、と小さく微笑みかけてから、その隣に腰を下ろす。すぐ近くで見ると、まるで絹糸が染まったような髪が、さらりと肩を撫でるのが分かった。何故だか嬉しそうに雨を見つめながら、少女は首を傾ける。さらり、と髪が横に流れる。さらり、さらり。琴が流れるように揺れる髪が頬の下で柔らかく崩れ、何故だか無性に、その髪に触れたくなった。そっと指先を差し入れると水のようにそれを受け入れ、搦め捕ると、少女がこちらを振り向いた。髪が、指先から逃げていく。
「なに?」と聞いた少女に首を振り、視線を窓に戻した。雨はしとしとと降り注ぎ、窓を叩く。彼女がしていたように、爪先で硝子を叩くと、こつりと小気味良い音がした。それだけだった。
「雨だ」
ミクの声で、我に返る。カーテンを片手で開いて、窓の外を見上げながら、「雨だよー」と感嘆のような息を漏らす。
「やだねぇ、どうせこの後梅雨が来るんだから、その時にまとめて降れば良いのに。春くらい小春日和を満喫させて欲しいよ」
「……………」
「ねえレン?」
ミクが振り返る。長い髪がさらりと揺れて、その内の一掬いが、肩に掛かった。さらり、しゃらり。鈴が鳴るような音がふと耳に甦る。
「………何?」
きょとんとミクがこっちを見上げる。手の甲で頬を撫でるように差し入れた指の先で、くしゃりと髪が形を変えた。無言のまましばらくそうしていると、やがてミクは、瞳を細めて唇の端を曲げた。首を傾け、頬が手の甲に触れる。
「違うでしょ?」
鈴の音が、ぴたりと止む。
ミクの髪から手を離すと、「さてさて」とミクが軽く伸びをする。
「どうせだったら雨も楽しみたいね。散歩でも行こうか?雨の日の散歩も中々粋なものだよ」
そう言って、ミクは笑った。俺は頭痛を抑える為に、また彼女に縋るしか無い。(少女の幻はまだ頭から離れない)
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時は黙して~のお宅の話。
* ギターとリボンとチョコバナナ
音楽室は防音材で出来ている。当たり前の話だ。
けれど私は、その信義が理解出来ない。何の為の防音なのか?大きな音を、扉の向こうに響かせない為だろうか。机に向かって一心不乱に背中を曲げる生徒達の為の配慮?それとも、思春期からオトナまでの愛すべき獣の羨望の的の、いかがわしい音を隠すためとか。いやそれはないだろう。夢は夢で終わるから二次元だ。
「初音先輩聞いてます?」
「うん?いやごめん、全く」
「ですよね…もういい加減先輩のマイペースっぷりにはなれました」
そう言うと、リンちゃんははー、と息を吐いて、肩から提げていたギターを下ろした。そうして、大事そうにケースに入れる。なんでも、春休みに弟さんのギターを勝手に持ち出したそうらしい。壊したらマズイ、と言っていたようないなかったような。
「でも、リンちゃんギター上手かったんだね、意外」
「ま、半分以上弟の影響ですけどね。アイツこういう機械にめちゃくちゃうるさいんですよ」
「へえー。それまたリンちゃんの弟だねえ。弟さんは上手いの?」
「プロ並ですよ、ムカつく事に」
ギターをしまって、ケースの表面をぺしりと一回叩いてから、リンちゃんは私の隣に腰掛けた。意味も無くライブ仕様に並べられた椅子に、観客はこれで二人になる。空しいだけじゃん、と私は一応止めたのだが、気分の問題っスよと彼女はにやりと笑うのだった。まあ、文化祭当日は、こんな事にならないよう祈る。
「ドラムは巡音先輩がやってくれるらしいですしー、ぐっちゃんはキーボードがいけるって言ってました。後は、初音先輩がベースを弾けば、完璧!」
「ちょっと待ってよ、私ベースなんて出来ないよ?そもそもギター自体触ったことないもの」
「ヘーキっスよ先輩なら。何せ音楽に愛されてますからね」
「止めてよーそういう訳わかんない事言うの。っていうか、ベースってギターより難しいんでしょ?」
「ははははは」
ごまかさないでよ!と思わず悲鳴を上げた私を余所に、「大丈夫ですって。ぶっちゃけ初音先輩がステージ上がれば誰も楽器なんて聞いてませんよ」と気楽に笑いながら、リンちゃんは行儀悪くも膝の上に片足を乗せて、スカートのポケットから取り出した棒付きのキャンディの包みを取った。まあるいキャンディをぺろりと頬張り、からからと口の中で音を立てる。ふわりと甘い匂いが漂った。
「……っていうか、リンちゃんこの間からよくそれ舐めてるよね。好きなの?」
「ふぁ?んー……好きっていうか、何か口が淋しいから、ですかね」
棒を口から摘み出すと、つやつやと光るそれを既に傾きつつある太陽の光に翳してから、再び口に含む。口が淋しいって、普通そういう時ってガムとか噛むものじゃないの?と思いながらも、後輩の唇の中でかろかろ音を立てるそれを眺めた。リップクリームを薄く塗った桜色の唇から、白い棒が上下に揺れている様はなんだか変な眺めで思わずすぐに視線を逸らした。
「…まあ、時々食べたくなるよね、そういうヤツ。でもリンちゃん、いつも同じ味だよね、飽きない?」
「…………」
ごまかし半分で問い掛けた私の言葉に、しばらくリンちゃんは黙り込んだ。唇の中のキャンディを舌だけで左右に動かししながら、謎の間を作り上げる。
あれ?と私が首を傾げる内に、唐突にリンちゃんは椅子から身を乗り出した。そして、唇から引き抜いたキャンディを、私の口の中に突っ込む。甘ったるい味が、一瞬で舌の上を支配した。
「にゃ、にゃにひゅるにょ」
「えーと、マーキング、とか」
「ひみわはんにゃいにょ」
「ですよねぇ、あたしもよくわかんないです」
あっけらかんと笑って、リンちゃんはあっさりと私の口からキャンディを引き抜いた。そして、再び足を組んで椅子の上に座ると、「これがあたしの味ですよー」なんて楽しそうに笑った。それからすぐに、再び他愛のないバンドの話へと戻る。秋に向けて気の早い夢を語る後輩の横顔に一切目を向けないまま、畜生やられた、と思った。何が触れた訳でも無いのにごしごしと唇を擦る。熱を帯びた頬はきっと、女子校マジックとやらのせいだ。
+++++
リンたんが食ってるのはちゅっぱなんとかのチョコバナナ味というオチ。
* 自律神経の話
「する気は無いのか?レンはさ」
酷く穏やかな声音で問い掛けられた言葉の意味を理解するまで、多少の時間が必要だった。理解した途端、ゆっくりとそれを噛み砕き喉に通しそして体の中に取り込むまで、必要以上に時間を掛ける。やがて低く「何が」と吐き出した。何と無くの物悲しさとでも言えるような手持無沙汰を紛らわす為、何の気無しに勝手に入り込んだカイトの部屋は、時計の秒針すら音を立てていなかった。デジタル仕様なので当たり前だが。
時折こうしてレンは、無言でカイトの部屋にやって来ては、断りの一つも入れずベットを占領し、雑誌や漫画を山積みになる程読み耽ったり、ゲームをしたりして過ごす。その傍若無人な態度にも、カイトは何も言わずにただ二人で空間と時間を共有する。そして、やがて彼の空白が終わった時、また何事も無かったかのように、レンはカイトの部屋から出ていくのだ。理由を聞いた事はない。そんなもの、聞かなくても分かる。
「だから、自立だよ。いつまでもお互い依存し合ってちゃ、何も始まらないし終わらないだろ」
「別に何も始まらなくていいし終わらなくていい」
「お前はそれで良いかもしれないけどさ、リンは違うかもしれない」
「違わない。リンも同じ事考えてる」
ベットに仰向けに寝転がり、微動だにしないまま本を読んでいるレンの言葉は既に確定され、揺らぎもしない。これくらいの揺すりじゃ反応しないか、とカイトは少しだけ息を吐いて、自身が持っていた雑誌のページをめくった。
カイトの部屋には、やたらと本が溢れている。といってもそれは、カイト自身が集めたものではなく、言わば彼等のマスターの廃品処理場と化しているだけだった。中には、家族に見せられないようないかがわしい本も、男性型のカイトになら唯一見せられるとばかりに詰んである(カイトは何度かレンの部屋に持って行かせようとしたのだが、レンの部屋はリンと共同である為渋々諦めた) といっても、それらは決して雑多と放置されることなく、きちんとまとめて本棚に収納してある。全体的に青で統一されたシンプルな部屋は、広さ的にはレンの部屋の半分程度しかないが、落ち着きのある居心地良い部屋だった。普段はやたらマフラーを靡かせ「アイスくれ!」と叫んでいるこの兄も、常識人な一面も持っているのだ、とレンに感じさせるだけの部屋であった。
その青に包まれた部屋の中で、今の所唯一の異色であるレンを振り返り、カイトは仕方が無いとばかりに諌めるような笑顔を浮かべた。初期型のKAITOは、後のCVシリーズよりもある意味人間離れした外観を持っている。子供のように柔らかく澄んでいない白い肌に、男性らしい筋張った大きな手は、時計の秒針とは切り離された存在だった。彼等の時間と成長はイコールではない。
「まあ、お前に成長の意味を説くだけ無駄だけどな」
「……それはアンタも同じだと思いますけど」
「そうだなあ、アンドロイドは夢なんて見ない、もんな」
独り言のように呟いたカイトに、ようやくレンは顔を上げ、怪訝そうな視線を向ける。その頃には、そこには既にへにゃへにゃと笑う見知った顔があるだけだった。
+++++
*続・アイとは如何様な以下略
※会話文
「つまり、愛はお金で買えるかどうかって話だったっすよね?」
「毎度毎度思うんだが、お前のその突拍子もない話題に対する自信はどこから来るんだ?」
「愛はちょっとばかし定義が不安定なものっすから、お金で直接バラ売りするのは無理かもしれないっすねぇ」
「無視かよ。聞けよ」
「価格は質量に準ずる所がありますから、目に見えないものって買い取れ無いものっすか?」
「無視した上に意見を仰ぐってか上等だコノヤロー」
「ま、身体は売れても心は売れないってヤツっすね。かがちゃんてば意外とロマンチストっすねー」
「まだ何も言ってねえよ。そろそろ鏡音君怒るよ?神威さん聞いてる?」
「あーかがちゃんまたウチの事神威って呼んでー、止めて欲しいって言ってるっすよ!」
「聞いてんじゃねーかよ。じゃあお前も俺の事かがちゃんとかふざけた名前で呼ぶな」
「じゃあレンちゃん」
「ちゃん付けから離れろと言っている」
「えっレンって呼んで欲しいんすか!?かがちゃんたら積極的」
「話を飛躍させんなァァア!!いい加減その性格直せ!」
「じゃーあー、呼ぶっすよ!せーの、レン!きゃーっ!」
「えっ何お前本気で俺に喧嘩売ってんの!?買うっつってんだろうがそのゴーグルへし折ってやろうか!!」
「うーんイマイチしっくり来ないっすね。やっぱかがちゃんで良いっす。そんな事よりかがちゃん次の数学ウチ当たるんでノート見せて下さい」
「聞けよ!お前のタイミングの使い方が全く持って解せない、腹立たしいにもほどがあるっつーかお前火災報知機解して直せるなら数学くらい簡単だろうが!」
「机上の理論は苦手なんすよ。どうしてサイコロを六回振ったら一回は1が出る事になるんすか。連続で6が出続ける可能性だって無きしにもあらずでしょう」
「だから確率にはあくまで前提と種類があってだな……あーもうめんどくせえ勝手に見ろ」
「わーいかがちゃんさんきゅーっす!やっぱかがちゃんは優しいっすねぇ……」
「お前に褒められても言葉に裏を感じて全然嬉しくねえ」
「ほんとっすよ。かがちゃんは口は悪いけど優しいっす。女の子達がかがちゃんにときめく理由分かるっす。かがちゃんカッコイイっすもん」
「っぉ………」
「お?」
「……………」
「……………」
「……………」
「……ひょっとしてかがちゃん照れました?」
「照れてねーよ!!」
「ははぁ、かがちゃんストレートな物言いに弱いんすね?」
「ばっ、弱くねぇ!!」
「きゃー照れてるかがちゃん可愛いー。んー、かがちゃんがもうちょっと背が高くなって、お兄より格好良くなったら考えあげても良いっすよ?」
「馬鹿言ってんじゃねえってかいつから上から目線!?流れおかしいだろ!」
「ま、結局かがちゃんはいつまで経ってもリンちゃん一筋っぽいっすけどね。シスコンの旦那様はウチ的にちょっと」
「お前にだけは言われたくねえよブラコン野郎」
+++++
少年よ抱ける大志を抱け
※完全レン→ミク
気付いたら見てるんだよな、と自分自身の不審な行動を象ってみた。すると、残ったのはうわぁ、と机に突っ伏した羞恥といかんせんどうしようもない甘酸っぱさだった。鏡音レン14歳、どうやら恋をしたらしい。うっわすげえ字面。少女漫画かよと内心毒付きながら(少女漫画なんて、誓って読んだことはないが)おーい鏡音が死んだぞーという声の主を睨み据えるべく顔を上げれば、ああ。また。今さっき自覚したばかりの恋心がざわりと粟立った。その桃色だかなんだか知らないが、とりあえずなんかもやもやした霧状のそれが想う先のその人が(甘酸っぱいとかいうレベルじゃねえぞ)さらさらと流れる長い髪を揺らして、廊下をそっと跳ねるように歩いていた(気持ち悪いとかいうレベルでもねえな)(理解した途端これって、どんだけ痛ましいんだ俺)
「あ、初音先輩」
「マジで!?どこどこ」
「やっぱあの人超美人だよな、クラスの女子とか目じゃねーし」
「アイドルだもんなー」
「肌とか超白いし、髪とか超さらさらだし!」
「お前超超うるせえ」
「今度のCD俺絶対買う。初回特典外せません」
「それは同意せざるを得ない。ライブ行きてー」
いつの間にか一人また一人と集まったクラスメイトの会話は、全く耳に入っていなかった。もし全身が目になるとかいう現象があったなら、正しく今の俺がそれだろう。学校なんて有り触れたかつ非常に不愉快な空間が、あの人が通る所だけやたら輝いて見えるのが、不思議でしょうがなかった。
「……鏡音?」
「うわっコイツ超ガン見!なんだよ、お前も初音先輩好きなんじゃねえか」
「はっ!?ちっげえよバカ!俺はただ、なんかアレだアレ!」
「アレってなんだよ、つーか鏡音姉って初音先輩と仲良かったよな、紹介してもらえよ!そして俺にも紹介してくれ」
「いやいや鏡音は無理だって、鏡音姉超うるさそうだもんなそういうの。誰か鏡音姉呼んで来てー弟が恋愛してますよー」
「だーうるせえ!違うっつってんだろうが!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ野郎の中で一際声を上げると、今まさに廊下を横切ろうとした先輩が、ふとこっちを振り向いた。ほんの一瞬、偶然というか必然というか(いや俺は先輩を見てた訳だから先輩がこっち見れば目が合うのは必然だよな)、俺と先輩の視線は噛み合う事になる。
「…………ぁ」
ふわ、と。大きな瞳を細めて、先輩は微かに笑った(睫毛長い。肌白い。目綺麗) それはごく限られた世界を生み出して、すぐに先輩は、そこからゆっくりと立ち去って行った。擦れ違った訳でもないのに、ラベンダーの微かな香りを嗅いだ気がした。
「……今こっち見たよな」
「マジで!?俺の事見たのかも!」
「それは無いから安心しろ」
「まあ、鏡音姉と先輩よく一緒にいるしな」
「俺も合唱部入ろうかなー先輩とお近づきになりてー」
「……つーか、初音先輩って彼氏いるんだろ。同じ学年で軽音部の」
なんだよー、とあっさりとした落胆を残して、盛り上がった空気はあっという間に散り散りになって消えた。さっさと別の話題に移ったクラスメイトの中で、俺だけが、そこから動くことが出来なかった。叶う宛もないということは、知っているつもりだ。だから、世界が粉々に砕ける頃にはいつも忘れる事にしている。俺は何も知らないし、自覚していない。幾度も幾度も、日が落ちるたびにこの言葉を繰り返す。忘却と回帰をあと何回繰り返せば、恋心って無くなるんだ?よくわかんね。なにせ俺はまだ14歳なんだ。
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マスタ「という少年の甘く苦い恋心をテーマにしたクオミク←レン曲を歌ってもらいたいと思うんだ」
レン「消えろ穀潰し」
ミク「デwwレwwwンwwwwもっとデレていいのよwww」
レン「黙れネギ女」
リン「レン暑いから離れて」
* 一場春夢
彼女は、『せんせい』という言葉の発音だけ、普通とは若干異なる。舌先に乗せた丸い空気を、転がすように発音して『せ』。再び吸い込んで『ん』。残りの二つは、舌が滑った弾みのように、同時に発する。それら全てを、唇を大きく使って舌足らずなように発音して、俺を呼ぶものだからすっかり彼女の癖を覚えてしまった。
「カガミネセンセ」
それでも、直ぐに振り返るのは気が引けて、足を止め、脇に抱えた出欠表と、教科書の類を何の気無しに持ち直してから、首から先に振り返る。次いで体、左足。右足はそのままに、彼女を振り返る。
「質問があるんです。少しお時間宜しいですか」
「………良いよ。何?」
ゆっくりと足を揃えて向き直ると、淡く揺れる前髪に手を伸ばしながら、唇を微かに曲げて笑った。白く大人びた指先が触れた先には、花を模したヘアピンが二つ並んでいた。
彼女と初めて出会ったのは、幾度も繰り返したのと同じ様に、進級して来た学生のクラスで無造作に黒板に名前を書いているその時だった。
鏡音、と幾度書いたとも知れない名前を、書き慣れたチョークで書き殴ると、少しクラスがざわめいたような気がした。といっても、名前を聞いて驚いた反応をされるのは珍しい事では無かったし、かといって新学期を迎えたばかりのクラスでは、馴染み切れないぎこちない空気が教室を包み、ざわざわと大きな音が上がる事も無かった。特別変わった事も無く、名前を書いて、規則正しく四方に並ぶ生徒達を振り向いた時、俺はそのざわめきが、物珍しい名前のせいではないということを知った。
彼女は窓際の席で、机に肘を付いて俺を見ていた。
柔らかな曲線でもって延びた手の上に、顎や頬は乗っておらず、ただ僅かに開いた唇が、彼女のささやかな驚きを示していた。その肌の白さと、桃色というよりは薄紅に近い唇の色が、網膜に焼き付いた気がした。まるで磁石で引き付けられたように、彼女から目が反らせなくなった。
その肌のコントラストも、微かに光を反射する淡い金色の髪も、その長さすらも、全てが一瞬で俺の記憶を呼び覚ました。決まりきった俺の人生の中で、唯一何物でもない、鮮やかな色。
彼女は、俺が愛したただ一人の女性に瓜二つだった。
沈黙は僅かだった。直ぐに俺は前に向き直り、何事も無かったかのように生徒に自己紹介をした。俺が自分の名前を言った時、やはりと言うべきか、先程よりも少し大きく教室はざわめいた。「カガミネ……って、うちのクラスにもいたよね?」という微かな声を掻き消すように、俺は声を張り上げて、年間のシラバスを読み上げた。テストの方式について話す頃には、教室はまた元のぎこちなさに包まれていた。
チャイムが鳴り、一年で最初の授業を終えて、教室を出た俺を彼女は追い掛けて来た。鈴の鳴るような、軽やかで少し頼りない声が、「カガミネセンセイ」と俺を呼んだ。その舌の回り方すら、彼女は思い出の中の少女と似ていた。
俺と同じ、鏡音という苗字を持つ彼女は、振り向いた俺に恥ずかしそうにはにかんだ。僅かな沈黙の後、「失礼ですが、ご出身は……?」と遠慮がちに聞いてきた彼女に、着慣れた白衣のポケットに手を入れたまま、故郷の名を口にする。すると、どこか納得したように、ああ、と彼女は俯いた。どうやら俺と彼女は、同郷の出身らしかった。「小さな村ですからね」と彼女は笑った。ということは、ひょっとしたら俺達は血族ということになるのだろうか。確かに、16の時に家を飛び出した俺と、まだ幼い彼女が顔見知りでないのも当然の話だ。そんな事を話しながら、俺達はしばし廊下で佇んだ。窓から吹き込む風に吹かれて、そっと髪を押さえたその横顔は、驚く程に記憶の中の彼女に似ていた。
「有難う御座いました」
ノートを抱え、そう言って彼女は頭を下げた。今時珍しいくらい礼儀正しい少女だと思う。すっと伸ばした背筋と、花の形のヘアピン。歳不相応な穏やかな笑みを口元に湛える彼女を見ると、やはり似てる、と頭を抑えたくなる程だった。けれど、あくまで教師という立場、生徒に不義な動揺は見せたくない。「またなんかあったら言えよ」と本を束ねた手を自らの肩に乗せて言うと、まるで花が開くように、恥ずかしそうに、嬉しそうに彼女ははにかんだ。そんなふとした仕種は、やはり子供らしく釣られるようにこちらも笑いそうになる。そんな事をしている場合ではないのに、と慌てて顔の筋肉を引き締めた。
「そういえばセンセイ、センセイは私と同じ出身なんですよね?」
ふと彼女はそんな事を言って、唇を丸めて俺を見上げた。そうだと思うけど、と何となく言葉を濁しながら言うと、「じゃあセンセイも御存知ですよね」と薄紅の唇に乗せる笑みを深くして、彼女は続ける。それは、歳不相応に大人びたそれで無く、また花が恥じらうようないとけない笑みでもなかった。例えるなら、唇の端をただにぃと曲げただけのような、そんな笑みだった。
「『鏡音』の姓には、双子が異常に多いという事」
ただそれだけ言って、彼女は再び無邪気な瞳で俺を見上げた。くりくりとした大きな瞳が、まるで硝子玉の紛い物のようだった。
やがて、廊下に溢れていた生徒達がぱらぱらと教室の中に引っ込み初めて、ようやく俺は今の時刻に気付いた。もう休み時間が終わるらしい。それを分からせる為、彼女にも時計を示すと、ほんの僅か、まるで心外だとでもいうように彼女は少女特有にふっくらとした唇を突き出した。しかし直ぐに歳不相応の大人びた笑みを浮かべた。「それじゃあ失礼します。センセイ」彼女はひらりと白いセーラーと黒いスカートを翻し、教室の中へと戻って行った。扉を通る瞬間、風に靡いた髪が、白いうなじをあらわにした。真っ白な、美しいうなじだった。
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一言で言うなら人外リンたんと一般人鏡音先生と近親なんとかと女夫子の話。誰か早く薬売りさんを呼んでくるんだ。
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「生きるのが辛いだなんて、思った事は有りませんよ。ただ、怖いのです」
そう言って、少しだけ目を細め哀しそうに笑った顔が、頭から離れなくなった。
物腰は酷く柔らかで、育ちの良さが滲み出る端整な身なり。白く鼻筋の通った顔立ちは、まるでこの世のものとは思えない程美しく、産まれてこの方憂いしか知らずに過ごした様な、深い影がくっきりと浮かんでいた。ただ静かに座っているだけのこの男に、初めて恋をしてしまったのかも知れない。そう思った。
「へぇ、そう。じゃあ死ねば良いんじゃないの?」
「死……そうか。どうでしょう。余り考えた事が有りません。何せ生きるのに精一杯で」
「それとも、一人で死ぬのは淋しい?」
珍しく、自分が率直な笑みを浮かべている事に気が付いた。常日頃、周りを警戒して他人を憎悪し、すっかり歪んで戻らなくなっていた顔が、すっと灰汁が抜けた様にさらさらとした表情に戻っていた。勝手に運んだ料理には、一切の切手は付けられておらず、それでもまた運び続けるものだから、すっかり隙間無く埋め尽くされてしまった机に手を付いて、笑った。清々しい気持ちで笑った。言葉はまるで水の様に溢れ、何処から湧き湶るとも知らない自信が、全てを真っさらな泉の中に返してしまった。この男は、駄目な人間だ。良い身分。端正な顔。全てに恵まれながらも、こんなに駄目な人間がいる。アタシの隣まで落ちぶれてくれる。
「アンタ、しょうもない人間だね」
「そうでしょうか、そうですね。僕はしょうもない人間です」
今の今まで自分を覆っていた不幸の重たい靄が、一気に晴れた気分だった。与えられた言葉だけを復唱し、自身に結び付けてしまうその頼りなさ。痛ましさ。全てが愛おしく見えた。この男となら、何処までも行けるかもしれない。
「アタシが、一緒に死んであげようか」
男は顔を上げて、瞳を細めてアタシを見た。まるで、視力の衰えで霞んだものを見るような目付きだった。唇をうすらと開けて、暫くアタシの姿を見定めようと睫毛を震わせた後、脆い笑みの様なものを唇に乗せた。けれどその笑みからは、人らしい笑顔の重みは全く感じられなかった。
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ネル→レンで人として終わってる人の話。