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珍しく仲良しな感じのレンとミクが朝飯食ったりしてるだけのお話。
レンミクではないです。一応ボーカロイド設定。

 物音一つしない、けれど決して静寂ではない朝。そんな朝に、レンは目覚める。毎度の事ではあるけれど、その度彼は、優しい朝に感謝した。
 夢から覚めるという重労働に、体に重たい疲労が纏わり付いてくる。一つ伸びでもすれば、すぐに目は覚めた。寝起きは良い方だ。首を傾ければ嫌でも目に付く姿見に、溜息に近い息を吐いて彼は白いベットの中から抜け出した。
 冷たくもない床を踏み締めて、リビングに向かう。そこでは既に起きていた同居人が、半分に切ったグレープフルーツを食べていた。

 「お早う、レン」
 「……はよーございます」
 「だれてるねぇ、相変わらず」

 ピンク色の果肉が乗ったスプーンを唇から遠ざけて、愉快だという風にミクは笑った。寝起きは良いと方だと自負しているレンだったが、彼女からしてみれば、彼の目覚めは悪い方らしい。一度遠ざけたスプーンを再び口元に運び、水々しい果実とさして変わりも無い唇でグレープフルーツを含んだ。

 「……朝飯?」
 「私のね。君には台所にサラダとトースト」

 一口ずつゆっくりと、美味しそうに瞳を細めてグレープフルーツを食べるミクに、何も言わずにレンは台所へと向かう。用意された食事は質素そのものだったが、彼女自身のものを見る限り、同じものを出されなかっただけマシだろう。
 サラダを皿に盛り、トーストは軽く表面が硬くなるまで焼いてから、バターを塗って再び焼く。
 互いに仕事の量には変わり無いからと提案した曜日ごとの食事担当の分担だったが、この分だとあと一月もしないうちに、台所はレンのものになるかも知れない。それでも、同居人たるあの肌の青白い少女は、朝にはフルーツしか口にしないのだろうが。
 高くけれど耳障りでなく、気味の良い音を立ててトースターが時間を告げる。仕事柄かも知れないが、トースターにあの音を採用した人間は凄いとレンは常々思っていた。耳でなく、心臓で聞くような音だ。例えるなら、同居人の声がそれだろう。と言っても、心臓の無い彼にはその仮説が正しいか否かは分からなかったが。自身を流れる赤い錆について多少の自嘲に笑いながら、こじんまりと置いてあるコーヒーメーカーに手を伸ばした。生活に置いて好みが真逆と言っても良い二人の間で、唯一合致したお気に入りのカフェで売っていたそれは、『お店の味が家でも』がキャッチフレーズだった。

 「コーヒーは?」
 「飲む。カプチーノにしてね」
 「はいはい」

 別々に買うのが面倒臭いという、酷く味気の無い理由で買ったペアのマグカップにそれぞれエスプレッソを注ぐ。片方にはミルクフォーマーで泡立てたスチームミルク、もう片方には普通のスチームミルクを入れる。
 それらのマグカップを左手、サラダとパンの乗った皿を右手に纏めて持ち、キッチンを出る。同居人が腰掛ける椅子の向かい側に座り、テーブルの上に皿とマグカップを置くと「横着者」と楽しそうにミクは笑った。皮だけになったグレープフルーツの入った皿を押しやって、白いマグカップを手に取る。

 「分けて持ってくれば良いのに、危なっかしい」
 「めんどい」
 「居酒屋かなんかでバイト出来そうな手捌きだよね、全く。今日は仕事は?」
 「これから」
 「そう。私と一緒だね。一緒に行っても?」

 何も返さずに、ただカフェラテを啜ったレンの答えに、満足そうにミクは笑った。無愛想にもぶっきらぼうにも見える彼の態度は、初めて会った時に比べれば随分良くなっている。まるで手負いの獣のような、他人への憎悪に爛々と目を光らせた少年と初めて見舞えた時、これから自分がどうなるのかと一抹の不安のようなものを抱いたものだったが。
 テーブルに両肘を付いて、揃えた手の甲に顎を乗せると、瞳を細めてレンを見詰める。ミクの視線を若干煩わしそうに眉を潜めながらも、何も言わずにレンは黙々とトーストを食べる。沈黙。しかし、静寂ではない。静寂を恐れながらも、沈黙を望む彼の性質に、彼女は滑り込める数少ない内の一人だった。

 「明日の予定は?」
 「……白紙」
 「じゃあミクとデート決定。明日レディースデーだから、映画安いんだよね」
 「俺は普通料金なんですけど」
 「何言ってんの。中学生は元々1000円の癖に」

 意味の無いやり取りに馴染みつつある自分に、思わずトーストを食べる手が止まった。それでも後悔する事は許されず、再びバターの香りのするパンを咀嚼する。黒いマグカップ持ち上げ、唇に近付けながら、ぼそりとレンは「……サスペンスが見たい」と呟いた。

 「駄目、恋愛」
 「また?」
 「そう。悪い?」
 「この間も見たじゃん」
 「春は恋愛ものって決まってるの。…さてそろそろ準備しようかな。君もいつまでもさくさくやってないでね」

 そう言って会話を強制的に断ち切ると、椅子から立ち上がって「カプチーノご馳走様」とミクは笑った。透けるような彼女の笑みに、相変わらず何も言わず、レンはただ瞳を逸らした。
 簡単に野菜を切り分けただけのサラダを平らげ、トーストを残りのカフェラテで流し込む。皿とカップを流しに付けて、出掛ける準備を済ませた頃には、ミクは春らしい花柄のスカートにチェックのタイツ、その上にジャケットという出で立ちで、先程までと同じ所に座っていた。

 「準備出来た?」
 「出来た」
 「そう。じゃあ行こうか」

 椅子から立ち上がり、スカートを払う。玄関に繋がる廊下を歩き始めた所で、レンの後ろをついていたミクが、「ああ、」と声を上げた。

 「留守電、入ってたよ」

 そこで、一旦レンの時間は止まる。
 ゆっくりとミクを振り返ると、相変わらず染み渡るような、考えの全く読めない仮面のような笑顔で、幻のように美しい姿でそこに立っていた。「確認しなよ」と細い指が指す先に、何も言わずにレンは向かう。

 物音がしない、静寂そのものの電話が、ちかりと光った。空気に溶け込むように押し黙ったミクに見詰められたまま、レンはそっと受話器を取り、耳に押し当てた。

 『………あのね、レン』

 いつもと同じ言葉で始まるメッセージは、30秒もしないうちに途切れた。夢で聞くのと全く同じ声のそれは、やはり物音一つしなければ、沈黙でもなかった。静寂だった。

 『元気でね。風邪ひかないでね。ごめんね。じゃあね、』

 メッセージが途切れた後の、妙に心を騒がせる機械音を聞きながら、しばらくレンはその場に立ち尽くした。
 やがて、受話器を置いて、ミクを振り返る。首を傾けたミクは、労るような沈黙でレンを迎えた。

 「……行こっか」
 「………」
 「帰りにスタバ奢ってやんよ」
 「……どうも」

 そして、二人は家を出る。
 後には静寂と沈黙だけが残されて、置いて行かれた電話が、また小さく光るのだった。











+++++

なんて解説が必要そうな文書。
でも頭で考えずに指先で考えているので特に設定がある訳でも無いんですよという。こういう文章を書くのは非常に非常に楽しいです。恐らくこういうミクとレンの話はまた書きたくなると思うので、その土台を作っておきたかっただけですフヒヒ。半年に一回くらいこういう淡々としたミクとレンが書きたくなる。

多分この家のリンはマスターと一緒に暮らしてる。
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