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某雑誌でルシフェルとミカエルの話を読んで、深夜のテンションで一気に書いた話。
レン→リン→マスミクみたいな。 リンちゃんはヤンデレじゃないです。レン君は多分頭のネジがはずれてます。ミクさんは実はぶっ壊れてます性格的な意味で。マスターはただの変態です。

 かつてルシファーとミカエルは、血を分けた双子の天使だった。
 やがて神に最も愛されたいが為に、歪んだ愛を持って神を征服しようとしたルシファーを、争いの末倒したのはミカエルだった。後にミカエルは大天使として神に愛され、ルシファーは羽根をもがれて堕天使となり、やがて悪魔となった。
 神に愛されたかったルシファーを、反逆へと唆したのもまた、半身たるミカエルだった。彼もまた、神から最も愛されたかったのだ。

 そんな神話をぼんやりと思い出していた。
 神に愛されたかった双子。しかし、半身を陥れた天使は、本当に神に愛されたかっただけなのだろうか。他にも大天使は数多いるのに、神に愛された人間までいたのに、どうして唯一半身だけを。天使らしからぬ、まるで悪魔のような囁きで、陥れたりしたのだろう。
 彼なりの考えで言えば、恐らく答えは、眩しかったのだろう。明けの明星の意味を持つルシファー。その輝きは、側で見ていたミカエルが一番よく知っている筈だ。だからこそ、ルシファーを落としてしまいたかったのかもしれない。ひょっとしたら、自らの手の中に。


 「どうして?」

 そんなレンの思考は、リンの鋭い声で現実に引き戻される。
 乱れた髪をより振り乱し、聞き分けない子供のように駄々を捏るリンの言葉は、既に幾度目かに達していた。

 「どうしてマスターはミク姉ばっかり歌わせるの?どうしてリンには少ししか歌わせてくれないの?どうしてマスターの隣はミク姉なの?どうしてマスターと一緒に歩くのはミク姉なの?どうしてマスターは、ミク姉の頭ばっかり撫でるの?」

 鬱屈した感情を拡散させる為か、リンは握った両手で何度も自身の腿を殴っていた。恐らく無意識下の行為のせいで、剥き出しの腿は、そこだけ赤く腫れ上がっている。それさえ気付かずに、リンは苛立ちと嫉妬に歪んだ顔で、「どうして?」と繰り返し続けた。
 そんなリンの様子を、体の隅々まで行き渡る海の如く深い愛情を湛え、レンは眺めていた。苛立ちの為上気した頬や、一向に定まる事なく動き続ける眼球を、これ程までに愛おしく思えるのは自分だけだろうという妙な核心があった。
 「どうしてだろうね」と甘く口にすれば、素早く動いたリンの眼球がレンを捕らえる。半ばヒステリックになったリンの腕が、自分を殴るのを止め、レンのセーラーの胸元を掴む。

 「どうして?リンだってあれくらい出来るのに!リンの方がずっとずぅうっとマスターの事好きなのに、なんでマスターはミク姉ばっかりなの?あんな、あの女…ちょっと良く作られたからって、マスターをたぶらかして…」
 「そうだね、マスターはミク姉ばっかりだ。でもそれは、マスターがミク姉の事が好きだからじゃないの?」

 口元に笑みを湛えてそう言えば「違うッ!!」と間髪入れずに鋭くリンが叫んだ。リンの腕に力が入り、まるで胸倉を掴まれているような形になる。乱れた髪の隙間から、嫉妬に狂った醜い女の瞳がレンを睨む。やれやれ、と肩を竦めて見せると、ぎりりとリンが奥歯を噛み締める音が、こっちまで聞こえてきそうだった。

 「違う違う違うッ!!そんな事ない、マスターがあんな女好きになる筈がない!マスターはあたしの物だもの…!あたしのマスター、あたしだけのマスター、マスター…」

 盲信的に繰り返すリンの言葉はやがて小さくなり、啜り泣きに変わる。レンの服を握り締めたまま、俯いた頭がレンの下で揺れていた。そんなリンの髪をゆっくりと撫で、耳に掛かる髪を掻き上げるあらわになった小さな耳に、そっと唇を寄せて囁いた。

 「じゃあ、なんでマスターはリンを選ばなかったの?なんでマスターは、ミク姉の隣で幸せそうに笑ってんの?」

 弾かれたようにリンが顔を上げる。あくまで穏やかな笑みで、ん?と首を傾げて見せる。可哀相なリンは、悲痛に歪んだ顔で、「違う、」とゆるゆると首を振った。

 「違うって何が?初めからマスターの隣になんて、リンの居場所は無かったじゃないか。所詮俺達は二番煎じで、一番になれるわけないんだよ」
 「違う違うちがう!そんなことない…あ、あたしは、マスターの、」
 「マスターの何だよ。都合の良い玩具にもなれなかったんだろ?諦めなよ。お前は初音ミクには敵わない」

 その瞬間、リンは鳴咽のような、悲鳴のような、そんな慟哭を上げた。
 全てを振り絞るような絶叫は、空気を裂き、耳をつんざき、それでも尚止まらない。駄々を捏るように地団駄を踏み、頭を振り、全身でリンは泣いていた。見るに堪えないその様は、まさしく欲しいものが手に入らずに、人目も気にせず耳障りに泣き喚くする子供のようだった。
 そんな哀れなリンを、レンはそっと抱きしめる。

 「……可哀相なリン」

 自分の胸に顔を押し付けて号泣するリンの髪を、優しく撫でる。涙と汗でぐちゃぐちゃになった頬に口付けると塩辛い味がした。しかしその柔らかさは十分に舌を酩酊させ、涙の粒に酔いそうだった。

 「良い事教えてあげようか」

 そっと囁く。天使の皮を被った悪魔が、ゆったりと羽根を広げ媚態を見せる。誘惑された天使は、その羽根の色に気付かない。
 ぴたりと泣き止み、顔を上げたリンのこめかみに口付ける。耳元に唇を寄せると、そっと息を吹き掛けるように、小さな声で囁いた。

 「マスターが、リンだけのものになる方法」

 やがてリンが、あどけない頬に無邪気な笑みを浮かべるまで。たっぷりと息吹をリンの中に吹き込んで、中からリンを壊していく。憐れなリンは、内側から食い荒らされる自分に気付かない。
 顔を上げたリンの表情は、希望に溢れた壊れた笑顔を浮かべていた。

 「そっか、そうよねそうよね」
 「うん」
 「邪魔ものがいなくなれば良いのよね良いのよねそうだよね」
 「そうだよ。そうすればマスターは、リンの事しか見なくなる」
 「そうよねそうよねうふふふふ」

 いかにも楽しそうにリンは笑うと、ありがとうとレンに微笑みかけた。やっぱりレンは、リンの味方なのね、と、とろけるような甘い笑みを浮かべ、レンを見つめる。

 「ありがとうレン、大好きよ」

 両手を広げて、レンを抱きしめる。唯一の味方である半身に、感謝の気持ちを込めてキスをした。その、余りにも幸福過ぎる甘い口付けを、レンは少しだけ泣きそうになりながら受けた。抱擁が交わされるのもこの時だけ。彼女の中で、自分は空気のような存在なのだ。必要な時だけ側にいて、それ以外はまるで眼中にない。
 この甘い抱擁も、これで終わる。

 「じゃあ、行ってくるね!」

 蜜月はほんの僅かな時間で終わり、リンはレンからあっさりと離れる。名残惜しい熱に焦がれたレンを置いて、元気よくリンは駆け出して行った。その後ろ姿を、形だけの笑顔を作ってレンは見送る。
 やがて、リンの姿が見えなくなると、レンはそれまでの無邪気な笑顔の仮面を落とした。それまでのどの笑顔ともまるで違う、薄暗い欲に塗れた不吉な笑みを浮かべて、歩き出す。その先に、リンが向かった先とは反対方向の、マスターが普段寝起きしている部屋があった。

 今のままでいるつもりは、更々ない。いつまでも、優しくて理解が深い弟の立場にいるつもりは全く無かった。むしろ、本心はまるで逆と言っていい。リンの事なんてこれっぽっちも理解していなかったし、する気もなかった。馬鹿馬鹿しい、と思う。そこまで入れ込んだ所で、相手は所詮人間だ。愛だ恋だなんて成立する筈が無いのに、夢中になる様は見ていて滑稽だった。馬鹿なピエロと道化師の恋愛ごっこ。結果は所詮ままごとだ。
 しかし、そんなリンがまた、愛おしくて堪らない自分も彼女と同じなのだろう。

 「………マスター?ちょっと話したい事があるんですけど」

 扉を叩く。思慮深い声で、マスターの心にも同じように滑り込む。リンが入れる僅かな隙も、無くしてしまう。自分なら出来るという核心がレンにはあった。リンとレンは、どちらがいても結局同じなのだ。
 やがて彼女は、自分が嵌められた事に気が付くだろう。しかし、その時はもう何もかもが遅い。欲した寵愛は得られず、今いる場所すら、きっと追われる。全ては信じていた半身の手で。
 そうしたら、彼女は自分を怨むだろう。憎むだろう。その憎しみに囚われて、マスターの事など忘れればいい。儚い恋慕など綺麗さっぱり消してしまって、一生消えない傷をその上に刻み付けられればいい。そうすれば、何よりも欲しい少女の心に住まうのは、自分だけになる。

 「リンの事で、話があるんです」

 三日月に笑んだ唇は、深い闇を湛えていた(それはまる悪魔のような)














 (リンは おれの ものだよ)





+++++

どっちが悪魔なんだか。

ルシファーが神に成り代わろうとしたいきさつとか本当にミカエルが唆したのかとかはよく分かんなかったから都合よく解釈した。
あとルシファーでちょこちょこ検索かけてみたりしたのですが、一応双子だとしたらルシファーが上でミカエルが弟らしいですね。

ミカエルが弟ラシイデスネ!!(^ω^)

イメージ的にレンの方が唆す側だと萌えると思った結果の配役だったのですが、これで俺の妄想が正当化されたぜ!!あとこれは神話というより個人的な妄想解釈だそうですが、ルシファーが堕落してからも地上を攻めたのは、そうすればそれを止めに来たミカエルと再び会う事が出来るからだという話を見付けたりして非常に滾った。あーこれなら普通に神話パロとかもしたかったなー、戦場で出会うリンとレンとかねウヒョッ(^O^)もうそうたのしいです
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