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『Dr.パルナサスの鏡』にものっそい影響を受けてる、賭けを持ち掛ける悪魔ミクとミクオ少年の話。
一応クオミクというか、一見ミク→クオに見せ掛けて実はクオ→ミク、に見えたらイイナー(^0^)と思う。

全体的にミクが演説してるだけなんですけど。

 「やーぁミクオ君ご機嫌麗しゅう!
 さてさて今宵も月が綺麗だね、かの文豪夏目漱石は『I love you』を『貴方といると月が綺麗ですね』と意訳したそうだが、私の瞳に映るこの朧月の幽し美しさもまた君と二人見上げる月だからなのかな?だとしたら、君の瞳にはさぞかし美しい月が映ってるんだろうねぇ是非私も見てみたい、君の目玉を刔り出して、私の眼穴に移植してでも見てみたいよ!
 いやしかし、現の好色一代男と名高い君だ、月より女性を讃える方が得意かな?女を隣に侍らせて、月の美しいさを讃えるなんてやってられねえよと言った所かもしれない。さっすがミクオ君男だねえ素敵だよ最高だよミクオ君!ならば私を、月よ星よと眺めても一向に構わないのだよミクオ君!
 さて七万二千百六十八秒振り再会の挨拶はこれくらいにして、どうだろう?私と賭をしないか?」

 夜の闇の中、はた迷惑な演説を終えた彼女の掌には、一枚のコインがあった。
 それをミクオは、寝起き特有の気分の悪さを隠しもせずに見つめていた。

 「………今何時」
 「中々良い所に目を付けたねミクオ君、流石君だ!今ちょうど、時計の針は26時を回ったね。分かりやすく言えば深夜2時と言った所かな?」
 「………眠い」
 「つれないねぇミクオ君!私のいない七万二千百六十八秒淋しくは無かったのかい?私は淋しくて淋しくて思わず『ONE PIECE』を一巻から読み返してしまったよ。チョッパーの過去に泣いてたら、気付いたらこの時間だった」
 「ばっちり読み耽ってるじゃないか……」
 「兎角私と君の会える時間は月が空を支配している間と限られているんだよ。さぁさぁ起きたまえミクオ君!悪魔の夜は始まったばかりだよ!」

 布団をばさばさと両手で叩いて、彼女はにたりと笑みを見せた。
 長い髪は高く二つに結わいているものの、それでも尚床に届くほどに長い。見る人をぎょっとさせる、普通には有り得ない色をした髪は、にもかかわらず浅瀬の海のように鮮鮮として美しかった。その上、どう見てもまだ幼い、それもビスクドールのように美しい少女の顔立ちに、全くそぐわない黒いスーツ。頭には黒いシルクハット。それらを難無く着こなしているのも、彼女の奇異な美しさ故だろう。
 しかしその全てを眺めた時、どう考えても彼女は人込みの中には紛れることの出来ない『異常』だった。しかし彼女は、ポケットをまさぐりマッチを取り出し「この世に異常等ないのだよ」とミクオにうそぶく。

 「そもそも異常とはなんだ?常識と異なる事か?ならば、常識とは如何なるものか。己の無知を恥ずかしげもなく曝し回る厚顔な人間が、勝手に引いた線の内側に過ぎないのだよ。
 たまたま私は、その線の外側に居ただけさ」

 肩を竦めてそう言うと、彼女は手にしたマッチを擦った。その灯を闇の中に掲げると、「うりゃ!」と妙に可愛らしい口調で、それをミクオのうずくまるベットに投げ捨てた。

 「うわああああああ何してんだお前はあああああ!!」
 「何時までも怠惰に惰眠を貪っている君が悪いのだよミクオ君。客人を待たせて恥ずかしいと思わないのかい?」
 「誰が客人だよ!とんだ招かれざる客だよ君は!」
 「はははっ!上手い事言うねミクオ君!流石初音家当主初音ミクオ君だ」

 流石にベットから跳び起きたミクオに、にっこりと彼女は笑みを見せる。軽く指を打ち鳴らすと、こうごうとベットを取り囲みつつあった炎は消え、元の静寂が闇を包んだ。そこには炭の匂い一つせず、毛布は焦げずにそこにある。 この行為で彼女の存在はようやく普通のカテゴリの中から弾き出され、彼女は『異常そのもの』になる。
 にやにやと笑う彼女から視線を逸らし、ミクオは大きく溜息をついた。ぐしゃぐしゃと掻き乱す髪は、彼女に比べれば幾分かくすんでいるが、それでも鮮やかな碧の色を残していた。瞳も同じく、また白過ぎる頬は、目の前の少女とよく似ている。
 「………ミク」と吐き出すようにミクオが口にすると、彼女はにやりと唇を三日月に曲げた。

 「賭をする気になったかい?ミクオ君」
 「……賭をするまで君はそうやって、僕の安眠を邪魔し続けるんだろ」
 「邪魔とは心外だねえミクオ君。そもそも、私は契約に従っている清き身だよ?契約違反は君の方さ」

 演技掛かった仕種で両腕を広げると、悪魔と呼ばれた少女はそれ相応な笑みを浮かべた。

 「初音家開祖たる君の曾曾曾祖父と契りを交わして幾千年、君の祖先達はどの歴史の中でも、私と賭をし続けたものさ。
 君から見れば、私は突然現れた珍客かも知れないけどね、私から見れば君は大層愛おしい存在なんだよ?目に入れても痛くないね」
 「……目に入れても痛くない存在に、普通火は付けないだろ」
 「おやおや卑屈な少年だ。私の愛が信じられないと言う。
 信じることを止めた人間は、死んだ鯰のようにぬめぬめぬめぬめ水底を這って生きて行かなければならないのだよ?辛くないかい?」
 「この際鯰の例えは放っておくとして、悪魔に信じる事を説かれたくはないよ」

 不機嫌そうにミクオがそう言うと、「そうだね、悪魔は惑わすのが定番だ。私としたことがファンタジーのいろはも忘れる所だった」と楽しそうにミクは返した。

 「そもそも、悪魔悪魔言うけど君は一体誰なんだ?その契約って何なんだよ」
 「私について知りたいのかい?ならば今は亡き君の父上に聞いてみるといい。ああっとしかし、一つ忠告させて頂くけれど、間違っても君の母上には聞かない方がいい。母上はまだご存命だ。君だって、母親を亡くしたくはないだろう?」

 顎に指を当て、真剣に考え込むような顔付きでミクが言い終えた時、ミクオは既に質問に関する全てのやる気を削がれていた。この悪魔は、いつもそうだ。くるりと回る言い回しで、契約については煙に撒く。つまりは言う気はないのだろう。まだ言葉を覚えたばかりの頃、初めてミクと出会ったその時から、ミクオはそう理解していた。あの時から、彼女は全く変わっていない。見た目も、背丈も、その猫のように気まぐれな仕種すらも。

 「さてさて楽しく会話しているうちに、夜の戸張は開けてしまう。時が立つのは本当に早いね、私の足元で無邪気に笑みを浮かべていたミクオ少年ももはや思春期反抗期真っ盛りときた」

 上機嫌にそう言うと、ミクはまるで舞台でお辞儀するように、腰を屈めた。人間の体の美しさを最大に引き出した形で腕を掲げ、部屋の一角、何の変哲もない押し入れを示す。
 そこは確かに、何の変哲もない。しかし悪魔が目覚めれば、そこは一つの舞台になる。

 「今宵選択を迫られる人間は誰なのかな?それは悪魔も分からない。ただ君は、コインの示す顔に従って、その人間が生きるか死ぬかを賭ければ良い」

 ミクの言葉にミクオは視線を逸らしたまま顔を顰た。
 そもそも、なぜそんな顔も知らない祖先の行動に、自分まで振り回されなければいけないのか分からない。悪魔と言えば、もっとおどろおどろしいものを想像するものだが、彼女がする事は、毎晩毎晩ミクオを叩き起こしては、人が彼女の世界で惑う様を見せ続けるだけだった。賭に勝てばミクオの願い、賭に負ければミクの願いが叶う。しかし、ミクオはまだ一度も賭に勝ったことは無かった。

 再びミクは指を鳴らす。その音に反応するかの如く一人でに襖が開く。その中は立地上有り得ない程深く続き、ミクが指差す先には、何も映っていない姿見が一つぽつんと置かれていた。

 「一体どんな夢を見せてくれるのか。さてさて君はどちらを選ぶ?表は天使で裏は悪魔だ」
 「表」
 「これまた馬鹿の一つ覚えと言わんばかりに代わり映えしない答えだね。毎度それで君は飽きないのかい?」

 端的な答えに、おやおやとミクは瞳を丸くする。それから困ったように眉尾を下げると、可愛らしく唇に指を当てた。まるで、それでは自分がつまらないと言わんばかりに。
 拗ねた表情を作って見せるミクをちらりと見遣って、ミクオは何度目かの溜息をついた。この悪魔の本当に好かない所は、人が嫌がる些細な行為を大喜びでする事だ。
 ミクの方は向かないまま、さっさとミクオはぽっかりと開いた押入れの入り口へと向かう。

 「どっちを選ぼうが僕の勝手だろ。僕はただ好きな方を選んでるだけだよ」

 好きな方、という言葉をやけに強調して言うミクオに、ひょいと眉を上げてから、やがてにたりとミクは笑った。「そうかそうかそれは失敬」と歌うように謝罪すると、軽やかな足取りでミクオに並ぶ。

 「私ともあろう者が、他者の自由に口出しするとはね。至らない悪魔で申し訳ない気分だよミクオ君。今ならエルトリア語の解読方法を誰かに教えてあげてもいい」
 「歴史を変える真似は止めてくれ……」
 「うん?文学を愛するミクオ君には古代ミステリーは浪漫かな?ならば親愛なる我が知音の為に、今の言葉は取り消しておこう」

 軽やかな足取りでさっさとミクオを追い越すと、ミクオの前に立ちはだかるように、ミクは立つ。帽子の縁を軽く押さえると、愉しくて仕方ないといった笑みを唇に乗せて、恭しくミクオに一礼した。

 「さて宵の舞台は幕を開けた。表なら君の勝ち、裏ならば私の勝ちだ。君が勝てば君の願いを、私が勝てば、また君の時間を少し頂こうか」
 「勝手にしなよ」
 「おや冷たいミクオ少年だ。初めて出会った時はあんなに情熱的に私を求めて来たというのに」
 「あああ昔の話を引っ張り出すのは止めてくれないか!?っていうか嫌な言い方するなよ相手はまだ言葉も話せない赤ん坊だぞ!?」
 「赤ん坊だろうがなんだろうが、以前の君が私にめろめろだったのは事実だろうに。いや恥じる事はないのだよ?初音家の人間ならば私に惹かれるのは無理もないのさ」

 からからとミクは笑うと、すいとミクオを前へと促す。ミクの言葉にげんなりと溜息をつきながらも、ミクオは促されるまま、襖の敷居を一歩越えて、中に入っていく。
 その後ろに続いて、ミクも軽やかに境界線を飛び越える。最後に部屋を振り向くと、誰もいない空間に向かって、にやりと笑ってみせた。

 「さあ賭の始まりだ」

 暗い闇は二人を飲み込み、素早くその扉を閉めた。















+++++

ミクが饒舌過ぎて書くのがとても楽しかったです。こういうミク嬢が大好きです。黒スーツにシルクハットの初音嬢と、燕尾服のめーちゃんは男装萌え的に絶対外せない。
折角タイトルに鏡付いてるんだから、鏡音も出そうと思ったのですがミクの使い魔くらいしか思いつかなかった。もしくは愛し合うが故に社会から阻害されて、行き場を無くしてミクに選択を持ちかけられた双子で、『リンと永遠に一緒に暮らせる世界に生きたい』という願いを叶える為の選択をして自ら鏡の中に留まったレンと、レンに閉じ込められたリンとか。それでリンがミクが居ないうちにクオと接触して、ここから出るための選択をする為にミクと賭をしてほしいと頼んだりするのですよね、表がリンで裏がレンなのですよね!妄想非常にたのしいです^^
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