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短めな鏡音のお話。もはや近親はデフォルトですレンリンです。

5月23日はキスの日だと聞いた…のですが間に合うかなーとか思いながら書いてたけど普通に間に合う訳が無かった。

 


 しとしとと雨が降り注ぐ、薄暗い午後4時半。空は灰色の分厚い雨雲に覆われ、その癖風は生暖かくて、重たい湿気が空までどんよりと重たくさせている。そんな中を、俺はひたすら歩いていた。コンクリートは余す所無く黒く塗り潰されて、湿気のせいか、出歩く人は殆どいない。雨粒自体は、そこまで重くもないんだけどな、と、傘の内側から出っ張った骨組みを見上げ、何と無く溜息をついた。
 雨の日は、憂鬱だ。空気中に含まれた水蒸気が脳にどうこうとかいう理屈は知らないが、とにかく雨の日は憂鬱である、と感覚だけの常識でそうと決まっていた。しかし、常識はずれとは実際身近にいるものだ。よりにもよってただ憂鬱であるという日に限って、俺の片割れは余計な憂鬱までも運んでくる。


 「リン」

 探すまでも無く見付けたリボンに、躊躇う事なく声を掛けた。見慣れ過ぎた後ろ姿を間違える筈も無かったし、雨の日の公園は他に人の姿も見当たらない。リンは、誰もいない公園で、一人ブランコに座って揺れていた。真昼に見る子供達がそうしているように、より高くを目指して空を蹴っているのではなく、地面に足を付けたまま、ほんの少しゆらゆらと、だ。名前を呼べば、それも止まる。振り向いたリンが、俺を見て、へにゃりと情けなく笑うものだから、また溜息が零れた。いつもぴんと天を指しているリボンは、水分を含んで力無く萎れていて、とめどなく降り注ぐ雨粒が頬を伝い、顎の先からぽたぽた滴り落ちていた。一体俺の姉さんは、雨の日は傘を差すという常識までも、どこに置いて来てしまったと言うのだろう。
 公園を横切って、真っすぐリンの前まで足を進め、雨粒に打たれるままだった体に自分が持っていた傘を差す。リンは俺を見上げて、もう一度力無く笑った。趣味の悪い口紅でも引いたような唇が、寒さに小さく身震いする。一体いつからこうしていたのだろう。リンの全身は既に隈なくずぶ濡れで、洋服は肌に張り付いているだけだった。

 「何してんの」
 「雨の中でブランコに乗るのは定番かなと思いまして」
 「何の」
 「失恋」
 「はぁ?」
 「お姉ちゃんまたフラれちゃいましたー」

 あっけらかんとそう言って、またへにゃへにゃと笑うリンに、心の底から呆れてまた溜息だ。「溜息ばっかついてると幸せ逃げちゃうよー」と笑うリンに、誰のせいだよと内心毒づく。けれどそれを声に出さずに、ただぽつぽつと顔や頭に降り注ぐ雨を払いのけ、「帰ろう」と代わりに呟いた。繰り返される言葉と光景。なだらかな強弱を付けて降りしきる雨は、どことなく五線譜を思い出させる。だったら、いずれ終わりが来る筈だ。なのに、楽譜の端に記されたリピート記号のせいでいつまで経っても終わりが来ない。

 「どうしていつもこうなっちゃうのかなぁ、好きだって言ってくれたのになー」
 「何、今回はそんなに本気だったの?」
 「分かんない。でも、告白してきた相手にフラれるのって、下手に厭味言われるよりも酷い気分。ハズレのキャンディーって言われてるみたい」
 「なんだそれ」

 んー、と情けなく笑って首を傾げながら、リンはまたゆらゆらと揺れる。リンが揺れる度、リボンから雨粒が滴った。傘の下から出たり入ったり。それを繰り返すものだから、結局リンは雨に濡れるし、傘を差し出している俺も濡れる。少なくとも一つの傘が手元にあるのに、二人とも濡れるとはどういう事だろう。だから、雨の日は憂鬱なんだ。傘くらいじゃ生温い雨は防げない。
 一体何度、この光景を繰り返しただろう。雨の日に、リンは唐突に彼氏が出来たと報告しては、また雨の日にどこかにいなくなる。その度俺は、リンを探して町中を駆け回る事になるのだけれど、そこはやはり双子だからか。大概さして探しもせずに、あそこだろうなと見当付けた所でリンは大人しくしていたりするのだが。真昼の逃走劇は雨によって呆気なく幕を下ろす。それでもリンは、逃げ出す事を止めない。まるで俺が追い掛けてくるか試すように。


 「ねー、レン」

 濡れるよ、という俺の言葉をまるで無視して、リンは地面に付けたままの足を揺らし、ゆら、ゆら、とブランコを揺らす。リンが揺れる度、雨粒がリンの髪を滑り落ちた。リンはいつまでも馬鹿みたいに笑っていて、代わりに俺の眉間に皴が寄る。このままじゃ、この顰め面が固まってしまいそうだ。ただでさえ悪い目付きが余計酷くなる前に、さっさとリンを連れて帰りたい。

 「キスしてよ。そしたら帰る」


 まるで自然に、リンはそう言った。そして俺は、ああ、とまるで自然にそれを受け止めた。
 俺達にとって、それは真夜中にココアを作ってくれないか、とこっそり頼むようなものだった。溜息をつく気にもなれない。誰かに否定された後、リンは空いてしまった心の隙間に段ボールでも詰め込むように、俺の存在を当て嵌めようとする。つまり便利な存在なんだと、自覚するまでもなく分かってる。けれど、それで良いんだろう。俺達は双子なんだから、足りないものを補い合うのにちょうど良い。
 そう思い、諦めるようになったのは、一体いつからだったろうか。リンが、初めて彼氏が出来たと口にしたあの時か。それとも、リンより愛した少女はいないと、気付いてしまった瞬間だろうか。それでも俺は、まだ気付かない振りをする。初めから隙間だらけのリンの心を、目を背けて見ない振りをする。


 リンを見下ろし、無言で体を屈める。リンも、揺れていた足を止めて、顔を上げた。雨の音が響く傘の下、そこに出来た狭い世界で、軽く唇を重ね合わせる。幼い頃から挨拶代わりに繰り返したそれは、冷え切った柔らかい熱を伝えるだけで、今更何の感慨も与えない。ただ、唇を重ねる瞬間に、リンがゆるりと瞼を閉じて、水滴が膝の上に落ちた。ブランコが、キィ、と軋む。幾度も繰り返される瞬間に、またいつもと同じ事を思う。雨の流れは五線譜だ。いつまでも終わりが来ないのは、きっと俺が(もしくはリン、が)終わりを見ない振りをしているからだ。


 「……帰るよ」
 「……うん」

 傘を持っていない左手を差し出すと、リンは右手でそれを取った。リンの手は雨に濡れて冷たくて、けれどしっとりとした熱が、その内側で確かに脈打っていた。隣に並んだ小さな肩が、これ以上雨に濡れないように、せめてと傘を左側へと傾ける。せめて、俺がここにいる間だけは、リンがこれ以上傷付かないように。同時に傷付いている間だけは、隣に俺を選んでくれるように。

 見上げた雲はほんの少し明るく、僅かな雲の切れ間が眩しかった。止まない雨が、傘の上を滑り落ちて、水滴の裏側にリンを隠す。俯いたリンが、小さく体を震わせて、濡れた頬を俺の腕に押し付けた。水滴のような雨が空からアスファルトに降り注ぐ。あと少しの間だけ、どうか止まないでいてくれないかと、誰かに祈らずにはいられなかった。

 

 



+++++

元は携帯日記用の小話なので説明はしょってますが、リンちゃんは大体告白されたら付き合う感じ。でも別に相手の事好きじゃないからフラれる感じ。そしてリンちゃんがホイホイ彼氏作るのはレンがリンちゃんを探しにいく理由と大体同じ。
 

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