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随分前に書いたきり放置してた天使みたいなリンちゃんとレンのお話。

鏡音誕なんですけど鏡音誕全く関係ないです。そもそもこれ書いたの10月くらいです。でも天使とか愛とかそんな痛い単語をレン君が連呼してくれてるからちょっとそれっぽくていけるかなと…思ったんだ……。つまり引っ張り出してきただけだよねごめんね鏡音さん。
鏡音誕はあんまり関係ないです。ボカロじゃない設定。レンリン…か……?
 


 僕は天使を飼っている。


 彼女に白い羽根は無い。頭上の輪もなく、おおよそ天使の象徴と言われるようなものは何も無い。けれど、彼女からは体重らしい体重を全く感じないし、僕らが話すような言葉は一切使わない。床から浮いたりはしないのだけれど、真っ白いワンピースから伸びる細過ぎる程の足で、ふらふらと気まぐれに僕の周りを歩き回る姿はまさに地に足付いてないって感じだ。だから、彼女は天使なんだろう。僕はそう思っていた。僕は幻想小説よりは自分の直感を信じている。だってここは物語と同じ世界ではないのだから、信じられるのは僕が感じるものだけだ。

 彼女は夏でも冬でも真っ白いワンピースを一枚羽織っているだけだった。長さは膝丈くらいまでしかないものの、たっぷりとしてそして軽そうな裾を翻し、音も無く床に舞い降りる姿なんかはとても僕らのような生物とは思えない。胸元に縫い込まれるように通された糸だけが、彼女を地面に縛り付ける重みのようだった。
 それでいて、彼女の肌はいつでもしっとりと冷たかった。手で触れた時など、いつまで経っても僕の熱は彼女に伝わらず、むしろ彼女の冷たさだけがしんしんと僕の指先を凍えさせていく。彼女は天使だから、僕らと違い熱がない。その柔らかな頬の内側は、きっと空っぽの空洞なのだ。だから、それを満たす為に、彼女は僕の側にいる。


 「リン」

 僕は彼女をそう呼ぶ。彼女はこれで振り向くから、多分通じているのだと思う。彼女が窓から差し込む光を独占し、部屋の中には一切興味のなさそうに瞳を細めて床に座り込んでいても、僕が呼べば大概振り向いた。時々、徹夜明けの睡魔に負けて彼女を一日放置した日なんかは、部屋中のティッシュというティッシュを床にぶちまけてそっぽを向いている時もあるけれど、それはごく稀だ。彼女は気まぐれだけれど、僕の言う事はそれなりに聞いてくれた。だから僕は、彼女がうっかりペットか何かに思えてしまう時がある。そんな事が彼女に勘付かれると、また今度はトイレットペーパーが全て芯から巻き取られてしまったりするのだけれど。
 僕の狭い部屋には、彼女と、まるで彼女のような空っぽの空間、そして窓から差し込む日の光しか無かった。彼女は太陽の光をよく好むから、日当たりだけは重視して部屋を探した。それ以外はどうでもよかった。部屋には必要最低限の家具くらいしかなかったが、彼女のお陰で退屈する事は無かった。ふよふよと気まぐれに僕の後ろを付いて歩き、時に止め、床で丸くなって眠るような彼女を見ているのは純粋に面白かった。


 僕らはきっと、気まぐれに寄り添い合うように、生きていた。
 彼女は殆ど笑わないし、泣かない。怒る事はあってもそれが表情に現れる事は無い。呼吸も無いだろうし、僕に温かさを伝える事も無い。

 けれど、生きているのだろう。
 僕が、ここで息をする限り、彼女は僕の隣でひっそりと、呼吸も無く生きていた。

 

 

 彼女から僕に干渉する事は、殆ど無い。僕が彼女の頬を引っ張ってみたり、夏の暑い日に冷房代わりに彼女の肌で涼を取ったりする事はあっても、彼女が僕に触れてくる事は殆ど無かった。僕に何かを伝える事も無い。ただ、一日に一度か二度、彼女は僕の事を真っ直ぐに見つめ、何かを伝えようとした。

 この時僕は、椅子の無い部屋の中では当たり前のように床に座って適当な本を読んでいた。僕がそれに読み耽っていると、ふと細い足が僕の足を跨いで、彼女が音も無くそこに立ったのだと僕に気付かせた。彼女の周りには音が無い。そしてやはり、重みと呼べるようなものがないのだ。彼女の足は頼りないくらいに細く、手も、足首も、僕が掴めば平気で指が余ってしまう。まるで骨と皮だけのようだ。けれど、触れてみればやはり彼女らしい弾力はあって、僕はやはり彼女は空っぽなのだと思う。彼女の中には骨の代わりに、とろとろと光る蜂蜜が入っているに違いない。なぜならば彼女は蜂蜜が好きだから。

 「……ああ、そっか」

 じっと僕を見下ろす彼女に、誰にでも無くぽつりと呟く。彼女の瞳は星屑のちりばめられた夜空のようで、鮮やかに煌めいたその瞳が、僕を真っ直ぐに見つめていた。すると僕は自分が宇宙に放り出されたような感覚に陥る。それが、彼女の空腹だ。

 分かった、と彼女に告げる為、僕は本を床に置いて、彼女の手を引いて僕の正面に座らせる。初めて会った時より、いつの間にか随分小さく感じられるようになってしまった頭を何度か撫でると、彼女はすっと瞳を細めた。
 大人しく床に座った彼女を置いて、僕は台所に向かう。僕の背丈の半分程しかない小さな冷蔵庫を開けて、缶詰のみかんとヨーグルトを取り出した。冷蔵庫の中身は殆ど無い。僕は生きていければそれでいい程度の物しか求めないので、身の回りの物は大概質素になってしまうのだ。その中に彩りを与えているのは、彼女だけであるように思えた。

 天使が食べるものは二つある。その内一つは、僕らが食べる物とほぼ同じだった。缶詰を開け、粉砂糖と混ぜたヨーグルトに和える。彼女は僕ら程食べ物を必要としなかったが、どうやら果物と、ヨーグルトやミルクのような乳製品、そして蜂蜜が好きらしかった。果物の中では、みかんが特にお気に入りらしい。試しに僕が最も好む果物であるバナナを与えてみた事もあるのだけれど、妙にふて腐れた顔をされたので次からは止めておいた。
 ガラスの皿にそれを盛り付け、最後に上から蜂蜜をかける。とろりと黄金色に輝くそれは、白いヨーグルトの上にきらきらとした軌跡を残した。彼女が喜びそうな色だ。それから温めたミルクも持って、彼女の元へと戻った。食べる物が余り必要でない割に、彼女はやたら食べ物にうるさい所がある。食べ物だけでなく、食器やスプーンにまでお気に入りがあるらしくて、僕は彼女の気に召すスプーンを探して遂には純銀製のそれを買う羽目になってしまった。今この家で最も高いものは、このヨーグルトの中には埋まっている細く小さなスプーンだ。これでなければ、彼女は大好きなみかんですら食べようとしない。盗まれたらと思うと若干憂鬱だ。また彼女が気に入るものを見付けるまで、スプーンを探して回らなければならない。

 「リン」

 僕は彼女を呼ぶ。
 床に座り込み、興味なさげに床に置かれたままの文庫本の表紙をめくっていたリンは、僕の声にすぐに反応した。顔を上げた彼女の隣に胡座をかいて腰を下ろす。小さな銀のスプーンが、ガラスに触れてカチャリと透き通った音を立てた。リンは、黙って僕の手元を見つめていた。ヨーグルトに和えられた、鮮やかなオレンジの果肉を一つスプーンの上に乗せ、リンの口元まで運ぶ。

 「はい」

 睫毛を伏せてスプーンを見下ろしていたリンの唇が、小さく開かれた。まるで酸素を吸うように、人間が呼吸をするように、彼女は唇を開く。唇にスプーンを差し込むと、果肉と銀を共に唇の内側に含んで、リンは瞳を細めた。目尻が淡く朱に染まる。どうやら、喜んでいるようだ。リンの唇に完全にスプーンが隠れた所で、果物と同じくらい水分を含んでいそうな唇からスプーンを引き抜く。歯を使わず口の中で果肉を押し潰すようにリンはそれを咀嚼して、やがて止まった。そのタイミングで、僕は再びリンの口元にスプーンを運ぶ。
 リンはこうやって食事する。重みの無いリンには重さを支える事は出来ないらしく、自分で食事をする事は不可能だ。だから、リンがガラスの皿を空にしてしまうまで、僕は同じ事を何度も繰り返した。猫舌の彼女が飲める温度になるまで、ミルクが冷めるのを待ちながら。

 やがて、ガラスの器に銀のスプーンだけが残ると、リンは再び僕を瞳に映した。僕は指でリンの唇の端についたヨーグルトを拭いながら、彼女が求めるものを瞳から汲み取る。僕を映した青色の瞳が、鮮やかな色をより深くして、僕を飲み込んでいくようだった。淡い金色の睫毛がそっと震えて、リンの唇が、小さく開かれる。

 「         」
 「………うん」

 そして、リンは語り始める。僕には伝わる事の無い言葉で、リンは音も無く僕に語りかけるのだ。僕は黙って、それに耳を傾ける。
 彼女の声は、軽やかなノイズに近い。さりさりとした柔らかい音がほんの微かに聞こえ、それは彼女の息遣いのようにも思えた。リンは僕に伝えているつもりでいて、僕は伝わっているつもりで相槌を打つ。唇を開き、微かな息遣いで歌う間も、リンの表情は変わらない。けれど、ほんの僅かな身振りや口の動き、瞬きで、僕は彼女の気持ちを推測する。僕が笑ってそう、と言えば、リンは少し瞳を細める。こうして僕らはほんの少しの間だけ、短い会話を繰り返す。
 リンが何かを語るのは、この時だけだ。体の中に溜まった蜂蜜で、彼女は僕に何かを伝える。僕に伝えなければならない事があるように。僕は、それをゆっくりと拾い集めて引き出しにしまう。いつか、僕が空っぽになった時、その細切れのパズルは完成するんだろうと、そんな確信があった。

 リンの言葉を黙って聞きながら、僕はそっとリンに手を伸ばす。片手で包み込めそうな程に小さな、冷たい頬に手を当てた。止まる事なく流れるように零れ落ちていたリンの言葉が、止む。リンは語る事を止め、僕の掌に頬を寄せて、僕の熱を吸い取る事に集中した。伏せられた淡い金色の睫毛が、白い頬に影を落とす。僕はそれを、綺麗だと思った。瞼を閉じた彼女はまるで繊細な彫刻の芸術品のようだ。

 天使が食べるもう一つのもの。それはきっと、僕の魂だ。ひょっとしたら、リンはそれを『愛』と呼んでいたかもしれない。指先がしっとりと冷えていくが、リンの冷たさは無くならない。僕の熱がゆっくりと、リンの中に落ちていく。僕は自分が空に近付いていくのを感じる。
 僕らはこうして、天使に魂を吸われて少しずつ死に近付いていくのだろう。だったらそれは、天使ではなく死神だ、と誰かは言うかもしれない。けれど、空っぽの天使を満たす為だけに生きるという考え方の方が、僕は好きだった。もし、僕の他にこの姿が見える人がいたら、きっと同じ事を言うに違いない。生憎今までそんな人はいなかったし、これから先もきっと現れないだろうと思うのだけれど。リンの姿はが見えるのは、恐らくこの世で僕一人だけだろう。彼女は天使であったけれど、天使である以上に、リンなのだ。僕とリンの関係は、人と天使のそれよりずっと深くて、終わりがない。


 僕にリンが見える理由。僕がリンを天使と呼び、また天使をリンと呼ぶ理由。それはきっと、ただ一つの小さな墓碑にあった。
 幼い頃、訳も無く淋しくて苦しくて、誰に教えてもらうでも無く見付けた墓。幼い僕は大人達が油断すればそこにいて、声を上げて泣いていたそうだ。理由は今の僕にはよく分からないが、きっと幼い僕は、理解していたのだろう。その墓が一体誰の為に作られたのか。
 それは、母の胎内で溶けてしまった、僕の双子の片割れのものだった。亡骸も無い水子の為、母は小さな墓碑を建てた。白い墓標に記された名前に気付いた時、僕にその石の上に腰掛ける、天使の姿が見えるようになった。消えてしまった僕の片割れは、天使となって僕の側にあり続けた。その日から、僕はリンを求めて泣くのを止めた。


 彼女は僕の魂を吸って、空っぽの空洞を満たしていく。リンがゆっくりと自分の形を取り戻していく度、僕の中身は空に近付く。そして、彼女がガラスの中身を蜂蜜で満たした時、リンは再び母親の胎内に戻るのだ。空っぽの僕もまた、リンに引かれてそこに還る。そこで、僕は母の温かさに溺れ死ぬだろう。空の僕は人の形を作れない。代わりに、僕の溶けた羊水を吸い込んで、リンは形を作りあげていく。

 リンは人としてこの世に落ちる。そして今度は、僕がリンの天使になる。
 そうして、永遠のような途方に暮れる程長い時間を、僕らは二人で歩んできたのだろう。何百年も、何千年も。互いの骸に寄り添いながら。


 壮大な夢物語だ、と我ながら思う。けれど、母にも父にも似なかった僕らは、きっと初めから二人である事で生を得たのだと、そう考える事くらい許される気がした。リンはまだ瞳を閉じている。やがて、その空色の瞳が開かれて、月に喰われた太陽が瞳の中の僕を照らす前に、僕はリンの瞼に唇を寄せた。ひやりとした冷たさが唇に伝わって、ほんの少しだけ、擽ったそうにリンは身じろぎをした。
 これだけ近付いても決して交わらない、寄り添う事しか出来ない僕ら。触れ合う事すら出来ないから、僕らは永久を共有出来る。それは、幸せな物語に違いないだろう。触れ合える事が、傷を舐め合うように近付く事が幸せだとは、僕は思わない。僕とリンは背中合わせで黙り込んでいるようなものだ。けれど、その背中は僕が消えるときまで傍にあり続けてくれると分かるから、僕は安心して瞼を下ろす事が出来る。

 触れた唇からは、相変わらずじんわりとした冷たさだけが伝わってくる。届かない愛の言葉を呟いて、僕もまた瞳を閉じた。閉じた瞼の向こう側に、僕が溶けて、リンの中を満たしていく様を考える。それは瓶の中の蜂蜜のようで、思わず触れたくなるような色で輝いていた。そっと瞼を開ける。その先には、煌めいた青い瞳が真っ直ぐに僕を映していた。リンが微かな吐息を漏らす。僕はそれを、幸福と呼びたくなった。

 

 

 

 

 

 










+++++

我ながら訳分からん話だなと思ってる。







元ネタであるとか特に気にしたつもりはないのですけれど、何と無くこれだなと思って聞いていた作業用BGM



このレン君まじイケレンボイス…凄い理想のイケレンボイス…私の中のイケレンってこんな声です。凄い曲調と合ってるイケレンボイス。


 


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