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BUTTERFLYの続編的な。長くなりすぎたので変な所で切ってます。どうにも救われなさそうな話だと思ってるのでその辺りはご注意。

学パロでレン→リン→ミク(→レン)です。腹黒レン君のターン、前篇。
 
 


 特別棟の屋上は、本館より若干低い。しかも、その若干高い本館が太陽の光を阻む為、日当たりも良くなく、全くと言っていい程人気が無かった。青春謳歌には全く向かない第二の屋上。
 だからこそ、俺はここが気に入っていた。日当たりが悪い分夏の湿気が強い日なんかは最悪だが、こうして秋が訪れ始めた、からりとした晴れの日なんかは中々居心地がいい。それに、広々とした空間で級友とふざけ合えない分、ここでしか見れないものがある。

 購買で買った四角い紙パックのストローに吸い付きながら、錆びた冊に腕を乗っけて、その日も俺はそれを見ていた。
 隣接して作られた女子校の、これまた人気も日当たりも最悪な中庭。本館の屋上に行けば、すぐ隣に同じ高さで設計された、日当たり抜群の女子生徒がキャッキャしてる屋上を何食わぬ顔で覗き見出来るんだろうけど、生憎中庭には人がいる事も殆ど無く、またいたとしても太陽の光からあえて身を隠した女の子達がひそかに良からぬラブロマンス(こっからじゃ本の中身なんて見えないけど、背の高いにーちゃん二人の表紙っていえば大体分かるもんだ)にキャーキャーしてるだけだから、わざわざ好き好んで覗き見しようなんて物好きは殆どいなかった。

 俺だって、理由も無く毎日こうもその場所を見下ろしている訳では無い。かといって、さっき言ったような下手すれば我が身の貞操が危うくなるような空間を覗き見している訳ではなく、言わば賭だった。
 基本的には月に一度か二度程度、時には月三回ある時もあれば、一度も来ないような気まぐれな回数。とにかく稀、としか言いようの無い確率の為だけに、毎日のように中庭を覗き込む俺は人から見ればかなり哀れだろう。それくらい自分でも分かる。
 けれど、それだってたまには報われるもので、実際今日は当たりだった。中庭には屋上にいる奴らが見たら涎垂らして大喜びしそうな影が二つ、ひっそりと身を寄せ合っていた。艶やかな長い髪を二つに結んだ、上から見てもはっきり分かる美貌の先輩と、それに比べたら短くて地味な金髪。何て言うか、哀れというより単純に可哀相だ。わざわざ人気のない屋上に足げく通って、こっそり覗き見る相手がまさか、家に帰れば必ず顔を合わせ事になる双子の姉ときたものだから。

 

 はっきり言って、リンは可愛くない。これは双子の弟たる俺が保証する。
 見た目だけなら悪くなく、むしろ淡い金髪に白い肌とか、繊細そうな指先やら伏し目がちの睫毛が長いので、かなり上等な部類に入る筈なのに、目付きと口の悪さがそれらを全て台なしに出来る程度に可愛くない女だった。リンを初めて見た人間は、大体一目見て地上に天使が降りて来たと勘違いする。そして次の瞬間、次に自分に向けられた冷た過ぎる視線に、それがただのヤンキーであった事に気付くのだ。

 リンのどこが可愛くないかといえば、それは大概目付きと態度である。瞳は常に不機嫌そうに細められ、笑みといえば他人を見下す時にだけ浮かぶ。まるで世界の中心が自分であるかのように、立っているだけで滲み出るあの不遜な威圧感は何とかならないのだろうか。おまけに、こっちが何か言おうものなら、返ってくるのは「バカじゃないの」という辛辣な言葉。こんなんじゃ友達なんて出来る筈もなく、唯一リンと会話するのといえば、昔っからの腐れ縁的な幼なじみの先輩が一人と、悲しいかな双子の弟である俺だった。
 しかしこの可愛くない姉は、哀れな弟をまるで召使のようにこき使い、自分は自分で先輩を蝶よ花よと大事に大事に崇め奉っている。本当にふざけんないい加減にしろと、そろそろ一発殴ってやりたい。けれどもし殴り掛かった所で、普段台所には立ちもしない癖にこういう時だけ都合よく包丁片手に返り討ちに事は、容易に予想がつくので何もしないのだけれど。結局弟というのは、いつだって姉には敵わないものなのだ。

 何が悲しくてこんなのと双子に生まれてしまったのか、と常々俺は思っている。もし、リンと双子じゃなかったら、その傍若無人振りに振り回される事も無かっただろう。そうしたら、毎日のように炊事洗濯その他雑用を全てやらされ、朝食に無駄に高いクオリティを求められる事もなく、これだけ甲斐甲斐しく尽くしているにも関わらず、罵声を浴びせられる事もない。全く、本当によく頑張ってるよなあ、と時々自分を褒めてやりたくなる程だ。
 それでも、俺がリンから離れられないのは、多分俺とリンが双子だからだ。男女の一卵性双生児なんて確率的にも殆ど有り得ない。だから、俺とリンは二卵性の双生児だろう。けれど、いつまで経ってもべったりとくっついて離れられない俺達は、きっと精神的シャム双生児か何かに違いない。そう思うくらいに、俺の心は確実にリンのそれにくっついていた。

 だから俺は、どれだけ理不尽に扱われようと、どれだけ嫉妬と羨望と憎しみの入り交じった眼差しを向けられようと、リンから離れる事が出来なかった。今だってそうだ。リンの傍にいられないなんて堪えられない。
 リンの方はどうか知らないが、とにかく俺は、この世界で1番可愛くない天使みたいな双子の姉を、世界で1番愛していた。それこそ、腕でも足でも引っぺがして、腰を縫い付けて本当にシャム双生児になってしまいたいくらい。眼球をくり抜いて硝子玉のそれを突っ込んで、上から包帯巻いて俺しか見えないようにしたい。双子なんだから、視覚になんて頼らなくても俺の姿くらい見えるだろ。そうして部屋に閉じ込めて、あの人の事を二度と思い出す事が出来ないくらい、一つになれたらいいのになあ、なんて考えながら、俺は中庭を、正確に言えばリンを見下ろしていた。
 普段は捻た表情しか浮かばない唇が、驚く程に穏やかで優しげな笑みを浮かべているのを黙って見ていると、気付くと握っていた筈の紙パックはぐしゃぐしゃになって、俺の手に張り付いていた。

 

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