忍者ブログ
このブログは嘘で出来ています。         
[269]  [270]  [268]  [263]  [260]  [259]  [258]  [244]  [224]  [218]  [215
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ミクぐみです。ミクグミです。ミクグミというよりミク→ぐみです。当然ながら百合です。端役に鏡音の起用はもはや趣味です。
ヤンデレやら監禁やらの表現多々なので苦手な方はご注意下さい。ほとんど洋風雛逃げ状態です。

 御主人様は、それはそれはお美しい方でした。
 まるでお人形のような顔立ちに、全く血の気の感じられない白い肌。流れる髪はまるでオーロラの如くであり、この世の物とは思えぬ程の美しさでした。

 御主人様は、この広い洋館にお一人で、歌を口ずさんで暮らしていらっしゃいました。かつては沢山の使用人を雇い、毎日のように御主人様の歌を聞きにくるお客で賑わったお屋敷と聞きましたが、御主人様のお父様でいらっしゃる旦那様の亡き後、御主人様はそれらの客を一切拒み、屋敷の敷居を跨がせる事は無かったそうです。そしてあの日を境に全ての人間を屋敷から追い払い、一人きりになってしまわれました。以来、誰も屋敷には訪ねません。ただ一人、御主人様の縁あるという金糸雀のような少女だけが、時折御主人様とお茶会を共にします。その少女(或は少年)だけは、御主人様も屋敷に入る事を許しているようでした。

 私がこの屋敷で使用人として働いていたのは、もう三月も昔の話になります。その時はまだ、当時程ではありませんが、使用人も大勢働いており、慣れないながら私も初めての奉公に齷齪しながらその中に混じって暮らしていました。今ではその日々を、ただ懐かしいと思っています。

 


*

 私がここにやって来たのは、偏に貧しい実家の生活の助けになればと思ったからです。私の家は小さな田舎町にあり、父と母、そして歳の離れた兄とで静かに暮らしていました。生活は決して楽では無く、当時としては極当たり前だった、働きに出れる歳になった娘として屋敷の敷居を跨ぎました。使用人の中には同じような理由からこちらに奉公に来ている娘も沢山おり、その中の一人として、私は御主人様の元で働いていたのです。
 御主人様のお姿は、初めてこの屋敷に来たその日に拝見しました。私と同じくらいの、まだ少女と呼ぶ方が相応しいそのお姿に、少なからず私は心を奪われました。なんと美しい方だろうと、そう思いました。けれど、同じお屋敷にいるからといって、大勢の中の一人である私と御主人様との間に接点などある筈もなく、言葉を交わす等以っての外でした。きっと、屋敷で働いている間、御主人様のお近くに行ける機会も無いだろうと、私もそれ以上は特に気に止めませんでした。

 御主人様にお声を掛けて頂いたのは、それから間もなくの事でした。着慣れないエプロンドレスを何とか翻し、広い廊下の角を曲がるとそこに、御主人様がいらっしゃったのです。何故そこにいらっしゃったのか、今となっては分かりません。
 御主人様はお一人で、肩の開いた黒い漆黒のドレスに身を纏い、窓の外を眺めていらっしゃいました。そのお顔に、歳不相応な、それでいて大変お美しい愁いの表情を浮かべていらっしゃり、私は心臓が煩く鼓動するのを感じました。私は慌てて足を止めました。そして、一歩後ろに身を引き、慣れない所作で覚えたての礼をして御主人様が通り過ぎるのを待ったのです。やがて衣擦れの音がして、じっと床を見つめる私の視界に、黒いドレスの裾が映ります。このまま廊下をお渡りになられるのかと思いきや、ふとその御御足が、私の前で止まりました。
 息を飲む暇も無く、細く美しい指先が、私の顎を捕えます。その御手で、私の顔を持ち上げると、御主人様はそれはそれはお美しく微笑されました。私の視界に、これまで平凡なものしか映さなかった、平凡そのものの私の視界に、美しいお顔がいっぱいに広がります。白い肌は透けるようで、青白い血管が幾つも頬に浮かんでいたのを覚えています。

 「お前、可愛い子ね」

 高く高く響く美しい声で、歌うように御主人様はそうおっしゃいました。それから、私の顎から指をお離しになり、静かにその場を立ち去られました。私は一人、恐ろしいくらいに鳴る心臓を手で押さえ、立ちすくんでしました。まさか御主人様が私などに目を掛けて下さるなど、思ってもいなかったのです。
 けれどこの鼓動は、決して高鳴りなどではなく、どこか恐ろしい畏怖のかけらのようなものを私に感じさせました。本能的に、自分はこのお方には生涯逆らうことは出来ないのだと、この時既に私は気付いていたのかも知れません。正しく蛇に睨まれた蛙、という表現が、ぴったりでした。ゆっくりと自分が飲み込まれているのも関わらず、ただ石のように体を固めて、捕食者の顔面を両目に捕らえることしか出来ない蛙。それが、私でした。
 それからしばらく私はそこに立っていました。鼓動は鳴り止みませんでした。業を煮やした婦長様が、私を呼びにいらっしゃるまで、長い事そうしていたのです。それが、御主人様から承った最初のお言葉でありました。

 

**

 それから御主人様は、事に付けて私に目を掛けて下さるようになりました。最初は廊下でお顔を拝見する度に微笑みかけて下さる程度のものだったのですが、気付くと朝食の控えから御髪の手入れまで、全て私に申し付けなさるようになりました。私は緊張で胸が潰れそうでした。御主人様が私を振り返り、「何を恐れているの、私の可愛い駒鳥」とまるでペルシア猫のように瞳を細めなさる度、心の全てを見透かされるような心地がしました。御主人様はなぜ私にこんなに目を掛けて下さるのでしょう。そう聞く事が出来たのなら良かったのですが、私にはそれが出来ませんでした。

 「私の可愛いぐみ」

 そう言って、人々の前で御主人様が私を誉めそやす度、私は身の置場の無い酷く心細い感情に囚われました。皆が私を良く思っていないことは、疾うに理解していました。私は決して器量が良い訳では無く、仕事が熟せる訳でもありません。なのに、気付くと私の言葉に逆らう人間はいなくなっていたのです。御主人様がそうおっしゃったのは明らかでした。御主人様は、私を他の使用人より一際贔屓して接して下さいましたが、私はそれがより心苦しくありました。御主人様は大変お美しく、誰もが御主人様の気を引きたがっていたのです。いつでも御主人様の一歩後ろに控えるよう命じられた私は、まるでその引き立て役でした。御主人様が薔薇の花ならば、私はその周りの枝葉です。地味な色合いに野暮ったい立ち振る舞い。きっと、皆内心私を笑い者にしているに違いない。そして、こんなに醜い私が何故御主人様の隣にいられるのか、妬ましく思っているに違いないと、肌で感じておりました。激しい羞恥に私が俯いて唇を噛むと、御主人様は私を振り返り、そして決まって言うのです。

 「笑いなさいな、私の可愛い駒鳥。お前は可愛い子よ」

 歌うような声、まだ幼さの感じられる舌が紡ぐ、まるで似合わないぞっとするような大人びた言葉。それらが、私の畏怖を誘いました。お人形のように美しく、この世の者では無いようなその御立ち振る舞いが、少しずつ私に恐怖を与えつつあったのです。私は、この方が、怖かった。

 


***

 屋敷で働くようになってからしばらく経って、故郷の兄から手紙が届きました。
 兄は、私と随分歳が離れていたせいで、私よりずっと先に家の為奉公に出ていました。けれど、私がいなくなるのだから、両親の面倒を誰かが見なければならないと、仕事を故郷に戻し帰って来たのです。ほんの少ししか共に過ごすことは出来ませんでしたが、幼い頃の記憶と何も変わらず、私の自慢の兄でした。穏やかな微笑が心を安らがせる、私を本当に可愛がってくれた大好きな兄です。
 兄からの手紙は、私の押し潰されそうな心を優しく包んでくれました。私の身を心配する言葉や、両親の様子、そして何より、私を誇りに思うと言ってくれる温かい言葉。中には、仕事も安定して、ずっと暮らしやすくなった。辛いことがあるのならいつでも帰ってきなさい、という言葉が、私の心を温かく包みました。兄が優しく微笑んでくれた気がして、それだけで私は抑えていた苦しみがぼろぼろと溢れ、手紙を胸に抱いて涙を零しました。帰りたい。そう思いました。兄の元に帰りたい。これ以上、あの恐ろしい方のお傍に立つ事は、私には出来ないと、その時強く思ってしまいました。

 今すぐお暇を頂こうと、手紙を握り締め私はて立ち上がりました。兄が、弱虫な私に勇気をくれました。御主人様は少し変わったお方ではあるものの、あくまで私と同じ血の通った人なのです。私の心配など杞憂に過ぎず、きっとお許し頂けるに違いないと、そう信じました。兄からの手紙をしっかりと胸に抱いて、勇気を出して扉を振り返り、そして固まりました。私は足元を蛇が伝うような悍ましい恐怖を感じました。いつからいたのか、音も立てずに、御主人様がそこに立っていらっしゃいました。

 


****

 「ぐみ、何を見ていたの?」

 美しい雪の結晶を思わせる微笑で、御主人様はお尋ねになりました。私は、全身の血が一瞬で氷点下まで落ちた心地がしました。一度恐ろしいと感じた恐怖は中々消えず、気付くと体がかたかたと小刻みに震えていました。御主人様は相変わらずお美しい。しかし、その美しさが、どうしようもなく私の心に恐怖を沸き立たせるのです。私は一歩後ろに下がりました。御主人様が、一歩前に進まれました。私は今すぐ、此処から逃げ出したい衝動に駆られました。それを必死に抑え、生唾を飲み込み、お暇を頂きたいのですと早口に申し上げました。
 それを聞くや否や、間髪入れずに御主人様は「駄目よ!」とおっしゃいました。恐怖に竦んだまま咄嗟に顔を上げると、眉を吊り上げた御主人様がまるで般若の面のように、それでいて大変お美しい顔で私を睨み付けていらっしゃいました。私はもう震えが止まりません。か細い声で謝りながらも、けれど一度溢れた言葉は止まりませんでした。

 「お暇を、頂きたいのです……!」

 喉がからからで、足も震えていました。呼吸が上がり、いつかのように、心臓が煩く鼓動しています。しばらく何も言わず黙しておられた御主人様は、やがて優雅な足取りで私の側までいらっしゃいました。私は、足元から崩れてしまいそうでした。その御御足に縋って、家に返してと懇願してしまいそうな程に、私は憔悴しきっていました。何故、こんなにも御主人様に対して恐怖を抱くようになっていたのでしょう。それはもう、こうなる事を、初めから予見していたのだとしか思えません。初めてお言葉を賜ったあの日から、私はこのお方に捕われた、哀れな駒鳥だったのです。

 「暇、が欲しいの?困った子ね。私の側から離れたいと?」
 「違います、お願いします、故郷に帰らせて頂きたいのです」
 「故郷?ほう、お前に故郷があったの?それは、今は一体何処に?」

 そう言うと、御主人様はそのしなやかな御腕から何かを一束はらりと床に落としましたそれは、はらはらと舞う細い糸のようにも思えました。菖蒲色の美しい糸です。菖蒲。糸。お兄様は、それはそれは美しい菖蒲色の髪をしていらっしゃった。

 「お、にい、さま……」
 「あの男はいけない男ね。私の可愛い駒鳥を惑わせたりして。もうお忘れなさい?お前には私はいるじゃない」
 「お兄様に、なにを、した、の」
 「怯える顔も可愛いのね、私の駒鳥。さあ、何をしたのだろう」

 自分の声が、震えていました。お兄様、お兄様。手紙は、いつ、書かれたのだろう。今日は何日だったろう。どうして今日、私に手紙が届いたのか?疑問符ばかりがぐるぐると頭を巡り、やがて優しい微笑みを浮かべたお兄様の姿が浮かび、消えました。歯の根が噛み合わない程に体が震え始めます。怒りを越え、嘆きを越え、何とも形容し難い感情だけが残りました。私は、選ばれてしまったのです。美しい氷の女王に。
 私はもう二度と、此処から出る事は出来ないのでしょう。屋敷のどこかで悲痛な叫びを聞きました、耳を覆いたくなるようなそれは、よくよく聞いてみると自分の声なのでした。けれど、その叫びのさなかでも、御主人様の美しい声だけは、滑り込むように耳に入るのです。

 「もう逃がさないわ、私の駒鳥。私がお前の兄で、父で、母で故郷よ。私だけがお前の全て。お前だけを閉じ込めて、この鳥籠を閉めてしまいましょう。毎日お前の囀りを聞くわ。嗚呼嬉しい。嗚呼、幸福だわ」

 御主人様は笑っていらっしゃいました。私は、泣いていました。叫んでいました。けれどもはや、この叫びを聞く事の出来る人間は、屋敷には一人も残っていないのでしょう。

 

 

 

 

 

 

*****

 以来私は、ずっとこの屋敷にいます。かつてのような使用人が着るエプロンドレスではなく、御主人様の好みのドレスで着飾って、私は鳥籠の中に収まりました。毎日御主人様の為に目を開き、食事を取り、生きています。私の姿を見る者は、もう誰もいません。私に故郷が無いのですから、私の存在を知る人自体、もはや御主人様しかいないのかも知れません。

 「………それで、その駒鳥ちゃんはどうしたワケ?」

 ティーカップを机に置いて、つまらなそうに少女は言いました。高い声もふっくらとした白い頬も、間違いなく少女ではあるのですが、彼女はドロワーズの上にドレスを着てはおらず、装飾も余りない一見すると少年に見紛うばかりの服装をしていました。少女に聞かれ、御主人様はゆっくりと口を付けていたカップをお離しになります。初めにお言葉を賜った時と同じ、漆黒のドレスに身を包んで「勿論此処に」と澄んだ声で歌うように言葉を紡がれ、また艶やかに微笑みました。

 「あたしまだ見た事ないけど」
 「どうして貴女に見せなければならないの。駒鳥は私にだけ愛でられてればそれで良いのよ」
 「……ナニソレ。倒錯しちゃったねミク姉」
 「貴女にだけは言われたくないわ」

 軽やかに御主人様は笑いました。私は、二人から視線を逸らして空を見上げます。鳥籠の中には沢山のものが揃っていて、もはや私には、この中と外どちらが本物の世界なのか、それすらよく分からなくなっていました。あの空は本物でしょうか。本物の空は、どんな色をしていたのでしょうか。私にはちっとも分からないのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 


+++++

ミクグミ良いじゃないですかと前思い立った途端つい。下でリンミクを書いた勢いでした。リンミクのミクさんとの対比が個人的に面白かったです。段々ルカミクとかルカリンとかでも良い様な気がしてきましたがミクグミですそこは譲らん。なんか凄い百合ブームなのが手に取るように分かりますね……百合良いよね。でも両想い百合より片思い百合の方が好きです。両想いが良いのはルカミクルカです。
これはあれですね、ちょっと作者さんのお名前忘れてしまったんですけど、Arkという漫画があってだな…それの百合お嬢様+洋風雛逃げみたいな……雛逃げ良いですよね、一回しか聞いた事ないんですけどあれは良い。
 

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
最新コメント
バーコード
ブログ内検索
P R
フリーエリア
アクセス解析

Designed by IORI
Photo by (C)アヲリンゴ

忍者ブログ [PR]