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折角なんで何か一つくらい置いておこうかなと思ったので、上げる予定じゃ無かった話でも。
いつぞやのレン君ブームだった時に、滾りのまま書いた文章。珍しく文章でレン君可愛いレン君可愛いした話なので、レン君がベタ褒めされてて笑った←既に冷静になってる状態

レンリンです人パロです。


 「姉さん、キスしようよ」

 そう、言ったから。


 「………いいよ」


 それだけで、あたしは驚くほど軽やかな足取りで、越えてはいけない境界線を飛び越えた。
 唇を触れ合わせるだけの行為に、それほどの意味があったのかと言われれば、少しだけ疑問に思わざるを得ない。けれど、確かにあたし達はあの時、キスを、した。

 

 レンは、姉のあたしから見ても、人並み外れた容姿を持っている。細やかな光を集めたような金髪と、お人形のような白い肌。時に女の子のように可愛いらしい顔立ちは、子供から大人へと変貌する時を経て、ぞっとするくらい美しいものになっていた。腕の欠けたヴィーナスが、もし呼吸をしていたら、あんな感じなんだろうとレンを見ていると思う。ギリシャの神話のような、完全で不完全な存在。それが、レンだった。
 ひょっとしたら、双子のあたしも同じくらい整った顔立ちをしているのかと思った事がある。けれど、鏡に映る自分とレンは、何かが違った。髪の色も肌の色も、目の色も作りも眉も鼻も唇も、ほとんど同じ筈なのに、違う。それは、あたしとレンを決定的に隔てる、性別にあったのかもしれないし、それよりもっと深い何かだったのかもしれない。レンにある何かが、あたしには無かった。いや、違う。あたしにはそれがあった。欠けていたのは、レンの方だ。例えばそれは、白く滑らかな石膏の両腕。

 レンは何て言うか、あやふやだ。そこにいる筈なのに、側にいると何だかふにゃふにゃとして、泡立つ水の中でゴーグル越しに見ているような、そんな、何だろう。色気のようなものがあった。立っているだけで、こちらの足元が揺らいでしまう、暴力的な何か。
 加えて、あの人並み外れた容姿があって、むしろレンは同世代の女の子達には敬遠されていた。同性の少年達すら、レンには近付こうとはしなかった。誰も、その隣に立つ勇気はなかった。たまたま隣に生まれ落ちた、あたし以外。
 成長期に差し掛かって、子供から大人に向かう今、レンの持つ何かはよりあやふやで、凶暴になっている。時が過ぎれば、それはレンの魅力になるんだろう。けれど、今はまだ駄目だった。当てられる、という言葉がぴったりなくらい、それは毒々しく極彩色にレンを彩っていた。時には学校の先生まで、レンから視線を逸らしたがる。だから学年を上がるにつれて、レンの側にはあたししかいなくなっていた。

 そうしてあたし達は、二人きりになった。そこに、二人で座り込んで、誰も入れないよう蔦を巡らし花を植えて、一つの庭園を作ってみた。するとそこには、真っ赤な林檎が一つ成った。ああこれが罪の果実だ、と。伸ばされたのは、同じくらい真っ赤な蛇の舌。

 

 

 「姉さん、俺の事好き?」

 レンは、よくそんな事を聞いた。この難しい年頃に、レンの側にはあたししかいた事が無かったから、レンは愛情に餓えているんだと思う。両親は当にあたし達を見放した。だからあたしは、まるで猫のように膝に頬を擦り寄せてくる弟の髪を撫でて、好きよ、と囁いてあげた。勿論嘘なんかじゃない。人並み外れて綺麗だというだけで、周りから疎まれたあたしの可愛い弟を、心の底から愛していた。だから、レンが望むものならなんでもあげたいと思っていた。早過ぎる母性は劣等感や嫌悪感を全て通り越し、ひたすらにレンに愛情を注ぐことを生き甲斐としていた。いつか、レンの側にレンのことを受け入れてくれる人が現れるまで。あたしがレンの心の溝を埋めてあげようと、そう思っていた。

 「本当に?本当に、好き?」
 「うん。大好き」
 「………そう、そっか」

 あたしの答えを聞いて、レンは嬉しそうに瞳を細めた。しばらくごろごろと膝に頬を埋めていたけれど、やがて顔を上げた。掌が膝の上を滑り、そっとあたしの手を握る。戯れに引き寄せられる手が、合図だった。何も言わずに瞳を閉じる。制服の黒いプリーツスカートが、ほんの少し皴になった。


 初めて唇を触れ合わせた時、どこまでも柔らかく、ちょうど天使とキスをしたらこんな感じなのだろうかと思わせるくらいみずみずしかったレンの唇を対して、あたしの唇は少しかさついていた。何度も唇を押し付けながら、時にレンはそれを熱心に舌先で舐めていたことを、今でも時折ぼんやりと思い出す。あの時感じた、違和感。ああ、あたしの役目ももう少しでおしまいだな、と直感的に理解して、ほんの少し寂しくなった。けれど、他には何も感じなかった。

 「………好きな子でも出来たの?」

 唇が離れてから、あたしより少しだけ高くなった背を見上げ、そう問い掛けた。握った手を離さないまま、レンは瞳を丸めてしばらくあたしを見ていたけれど、やがて「………うん」とゆっくり頷いた。拒絶されてばかりの臆病な愛情は、あたしにしか向ける事が出来ない。つまり、レンが抱いた全ての愛情は、丸ごとあたしに向かってくる。レンが本当に求めている唇を与えてあげられない自分に不甲斐無さのようなものを感じながら、そっとレンの髪を撫でた。ごめんね、と呟けば、どうして、とレンは寂しそうに笑った。その余りに綺麗な笑顔に、あたしはしばらく見惚れてしまった。

 

 「姉さん」

 触れていた唇が離れ、レンがあたしを呼ぶ。包み込むように握られていた手が、シーツの上に押し戻される。皴になったスカートの下を、掌が這ったような気がした。ゆっくりとスローモーションのような動きで、見えていた景色が遠ざかっていく。狭い部屋の、薄暗いベットの上で。
 そしてあたしは、いつの間にか歪んでいたあたし達の愛情の到着地点がここだと気付く。けれど、もうどうすることも出来なくて、いつの間にか伸ばされた腕が、たった一つの禁断の果実をもぎ取るのを、ただ見ていることしかしなかった。もし、気付いていたとしても、あたしは何もしなかっただろう。レンが望むものなら何でも与えると、最初に甘言したのはあたしだ(つまりあたしは庭園の乙女などではなく)

 「姉さん、しようよ」

 何を、とは聞かなかった。レンにそれを与えたのはあたし。与えられない林檎の代わりに、自分の持っていたものをあげた。レンを、確かに愛していたから。

 「………いいよ」

 いつかと同じように、あたしはあっさりとその線を飛び越えた。二人しかいない楽園に、飛び越えてはいけない罪なんてあるんだろうか。
 それでもいつか、レンはここから出ていってしまう。まがい物の罪の果実で満足出来るのは、それしか与えられていない時だけだ。ごく限られた期間にだけ、花を咲かせる禁断の楽園。モラトリアムが終わるまで、あたしはここでむせ返るような花の匂いを嗅ぐ。あなたのいない楽園は、一体どんな花を咲かすのだろう。終わりの風景を瞼の裏に掠めながら、重なる熱に瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


+++++

楽園の終末に蛇が微笑む。

 

 


OOEボツ案というかただの書きなぐりというか。ごっつい少年の色気を持ったレンくんと凜々なリンちゃん。
このお話はレンリン→レンリン(年齢制限)→レンカイと素敵にマイナーチェンジするルートを辿ります。最初はこっちで書く気満々だったのにやっぱりレンカイは私には無理だった。いっそレンにリンを姉さんと呼ばせたかっただけである。
あと書きかけのレンサイドの話もあったんですけど、そっちもそっちで始終レンがリンをベタ褒めしてる話でした…一体何があった。OOEは鏡音妄想するなら普通に身分物でいいと思います。社長令嬢と秘書の息子とか。
 

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