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学パロ三角関係後半部分。腹黒レンリンのターンです。→1


前作といいますか『BUTTERFLY』の方のイメージを若干崩してしまうかもしれない可能性がありますのでそれなりにご注意。


 




+++++



 「お帰りーお姉様」
 「…………」

 扉が開かれて開口一番、片手を上げて笑顔でそう言ってやると、リンは露骨に嫌そうな目でしばらく沈黙した。俺が爽やかにかけた挨拶には何一つ返さないまま、玄関の扉を閉めて後ろ手に鍵を掛ける。腰を屈めローファーを脱ぎ捨てながら、「待ち伏せとかマジキモい死んで」とこれまた酷い暴言を残して、さっさと靴下だけになった足で床を踏み締めた。新たな重さを受け止めて、足の裏が一人分だけきしりと軋む。随分長い間同じ所に居座り続けていたせいで、俺の体はすっかりフローリングを仲間だと思い込んでいたらしい。

 「普通ただいまーって返すもんじゃないの?この世で二人だけの姉弟ですよ?」
 「ウザい」
 「まあ慣れてるから何とも思わないけどね。今更リンに傷付けられる俺じゃないよ」
 「慣れてるんなら察してよ。家に帰って早々あんたの舌の回り具合を確かめたい訳じゃないんだけど」

 苛々とした様子を隠そうともせずに、リンは俺の横を擦り抜けて部屋へと向かう。まあ大体学校から帰れば、着替えるのが当然だろう。けれど、まだ秋も暮れない今の時期に、すっかり日の落ちた窓の外と冷めた夕飯を見れば、俺だってはいそうですかとリンを部屋に閉じこもらせる訳にはいかない。家にいるのは俺達だけで、本来子供を叱る筈の両親は、この場にはいなかった。ならば、部活も無くバイトもない、リンの空白の時間を問い質さなければならないのは俺だろう。そう心の中で理屈を捏て、リビングを素通りしようとしているリンの後を追う。

 「……最近さぁ、リンちゃん帰るの遅くね?何してんのかなーと健気な弟君は気になったりならなかったり」
 「ならないならいいんじゃないの」
 「まあ正直いうと連絡くらい欲しいよね、夕飯の時間もあるしさ」

 ラップを掛けて食卓に鎮座された料理を指で示すと、流石にリンの足も止まった。なんだかんだでリンは口が悪くて少しばかり俺に理不尽なだけで、意外と常識持ったしっかりした性格だったりする。親がいない分の家事を全て担っている俺に、一応申し訳なさのようなものは感じているらしいのだ。実際、リンは俺が作った食事を残した事はない。時々、嫌がらせに茹でただけの人参を料理に添えたりすると、勢いよく投げ付けられたりはするけど。

 「こんな時間まで何してんのかなーとさ。なんか用事あるなら、リンに合わせて飯準備するけど」
 「……連絡すれば良いんでしょ、めんどくさい」
 「そうじゃなくてさ、何してんの?また先輩の待ち伏せ?」

 軽い調子そう言うと、途端にリンの足は止まり、勢いを付けてこっちを振り向いた。余りに素早く首を回したせいで、細い髪がリンの頬をぱらりと撫でる。その瞳は、さっきまでの冷えたものとはまるで違い、一瞬で煮えたぎるような怒りに染まっていた。先輩、という言葉に反応したのは明らかだ。
 リンがその言葉に反応する度、その言葉の為に俺に殺意を向ける度、心に積み重ねたジェンガの塔がぐらぐらと揺れる。いつの間にか積み上げていた一人ジェンガは、もう極限まで高さを積んでいた。リンは気付かない。まだ気付かない。これは、俺とリンの我慢比べだ。

 「まだ先輩にべったりしてんの?先輩も面倒見がいいっつーか。あの人良い人だよね、学年違うのにいつまでもリンの面倒見てくれて」
 「うっさい、お前には関係ない。次ぺらぺら余計な事言ってみろその舌マジで引っこ抜く」
 「あ、そういえば今日の昼先輩と二人でお喋りしてんの見たよ。リンは本当に先輩が好きだね」

 リンの怒りが冷めないうちに、被せるように昼の話をすれば、リンの瞳からは一瞬で怒りが消えた。
 戸惑いと、疑問。それらに揺れた大きな瞳に、何にも言わずに笑ってみせる。知ってるよ、と暗に告げる笑顔に、今度はす、とリンの表情から色が消えた。見られたくは、無かっただろう。本人は隠しているつもりなんだろうが、先輩と二人の時のリンの態度には明らかな恋慕がただ漏れで、気付かないのは先輩くらいだ。

 「まあ仲良しなのは良い事だよねー、仲良しで済むんならさ」
 「な……に、言」
 「は?しらばっくれようとしてんの?なぁ、リン。俺が本当に気付かないとでも思ってた?」

 俺達双子なんだよ?と明るく肩を竦めると、リンの顔からは益々血の気が下がっていった。そりゃそうだろう。私レズビアンなんです、なんて、今更誰かに告白する勇気はリンには無い筈だ。小さい頃から想い過ぎて、隠す事が当たり前になった恋心を、誰に話す事があるだろう。リンにとって、それは揃ったジョーカーだった。取っておいてはいけないのに、出す事も出来ない。そうすればいつまでも続く不毛なゲームを、リンはずっと大事にしていた。長続きはしないと分かっていながら、それでも後少しだけと先延ばしにして。けれど、まさかそれを、今ここで暴かれるとは思っていなかった筈だ。
 目の前のリンの表情は、言葉にしなくても明らかなくらいに狼狽していて、さっきまでの不遜な態度はどこへやら、定まらない視線ときつく握られた掌が、可哀相なくらいだった。ぐらり、と塔が揺れる。俺はそこに、また一つピースを積み上げる。


 「好きなんだろ?あの人の事。友達としてじゃなくて」

 ばさりと大きな音を立てて、リンの鞄が床に落ちた。
 目の前の愛しいその人は、絶望に震える瞳で俺だけを見ている。どうせあの甘い眼差しを向けてはくれないのだから、それ以外の表情くらい、独り占めしたっていいだろうと思う事でいつの間にか歪んでしまった想いを正当化した。

 俺は、ずっとリンを見ていた。それこそ小さい時から、隣でずっとリンだけを見ていた。だから、リンが俺なんかに目もくれず、誰を見つめているかは知っていた。そしてその人の視線の先を辿ると、自分に返ってくる事も知っていた。これは、リンのミスだ。先輩が好きで自分でも知らないうちに先輩を独占して、同性であるというコンプレックスから近付く異性を排除し続けて。その結果、先輩の近くにいるのはかの騎士様と限りなく同じ形をした俺だけになってしまった。
 だから、先輩が俺に抱いてるのは、多分恋なんて呼べる程のものでもない、淡い憧れみたいなものだと思う。けれど、リンの心が引き裂かれるにはそれくらいで十分だった。同性に向けた叶う事のない恋心。叶わないと諦めた筈のそれが、自分の弟なんかに辿り着いてしまったら、そりゃあ腹も立つだろう。少しくらい冷たく当たりたくもなるだろう。
 けれど、リンは知らない。見向きもしなかったもう一つの愛が、焼けて爛れて醗酵するくらいの勢いで自分に向けられていて、かつそれが、おんなじような理由でおんなじだけの、いやそれ以上の年月を燻っていた事を。

 「そんな顔しないでよ」

 まるで硝子を割ってしまった事がバレた子供のように、血の気を無くして唇を震わせているリンの頬にそっと手を当てる。顔を上げさせると、不安に怯える瞳と視線が合った。こんな顔もするんだ、と少し驚く。凍てついた仮面を落としてしまえば、むしろ歳より少し下に見えるくらいに幼い表情。掌で包んでしまえそうなくらい小さい顔に、華奢な首筋が乱暴にしてしまえば壊れてしまいそうなか弱さを持っていた。泣きそうな瞳が、どうしていいのか分からないという風に俺を見ている。俺を、俺を!それが堪らなく嬉しくて、唇の内側で笑みを噛み締めた。

 「確かに同性にって変わった事かも知れないけどさ、俺は別に気にしないから」
 「…………え、」
 「誰が駄目って言っても、俺はリンの味方だよ。だって俺達、双子じゃん」

 明るい笑顔でそう言うと、リンの瞳が今度は別の困惑に揺れるのが分かった。そりゃそうだ。今まで恋敵と怨んで嫉んで冷たくしてきた相手が、突然唯一の理解者の立ち位置まで這い上がって来てしまったのだから。頭の中では凄まじい勢いの葛藤が生まれているだろう。リンは真面目な性格だから、理不尽な怒りを向けてきた俺に少なからず罪悪感を感じている。そこに、全く気にしてません僕は君が大好きですと微笑む弟の姿を見れば、良心の呵責は耳鳴りがするくらいうるさくリンを責め立てる。そして俺は、突然の事に戸惑うリンが、苦しむリンが、愛おしくて仕方なかった。

 リンがあの人の事を、本当に心から想っているのは知っている。それこそ、俺が入る隙も無いくらい、リンの恋心は一人で完璧なまでに完成していた。想い返される事もなく、かといって他の人を想うことも無いシェルターのような恋心は、まるでゴールがない。終わりがないから、終わらない。完成された恋の内側で、リンは覚めない眠りについてしまった。すると必然的に、俺も同じような愛を作り上げるしかなくなる。リンが俺を見ない以上、諦めるか、リンみたいに想い続けるか。小さな頃はそれでもいいかと思えたが、どうやらこんな所で俺とリンは全く似なかったらしい。

 「初音先輩の事好きなんだろ?」

 促すようにもう一度言えば、リンはか細い肩でもって俯いた。成長とは恐ろしく、この時俺は、初めて自分がリンより背が高くなっている事に気が付いた。所詮、俺達も男と女だったんだよな。女の子を好きになったからって、リンの体は都合の良いように成長していく訳では無い。細い肩が、華奢な首筋が、リンが本当は守られるべき少女であるのだと、そう告げていた。

 やがて、小さく、本当に小さく、蚊の鳴くような呟きと共に、リンは小さく頷いた。細い髪が揺れ、さらりとその顔を隠す。とうに分かりきっていた答ではあったものの、面と向かってリン自身から、こうも切なげに告白される淡い恋情は、俺の心の唯一柔らかかった部分に突き刺さった。鋭い痛みを伴ったそれは、すぐに剥き出しの肉塊に飲み込まれ、やがてどす黒く硬化していく。ぎちぎちとそれは柔らかい肉を蝕んで、全てを包み沈黙した。もう傷付く所がないくらい、隙間無く心を埋めていく。あーあ、と心の中で呟いた。小さな頃から積み重ねて来た、危うく揺れるジェンガの塔が、今。

 音を立てて、崩れた。


 「でも俺はね、そんなリンがすき」

 俯いていたリンが、一拍遅れて顔を上げるその前に、手首を掴んで細い身体を引き寄せる。リンが何も分からないうちに、言葉の意味に気付く前に、素早くその唇に自分の唇を重ねた。それは俺が考えていたよりずっと柔らかく、温かく、そして甘かった。

 「―――っ!?な、…っぅ」

 びくり、とリンの身体が強張るのが分かった。一度触れてしまえばあとは簡単で、何一つ考えない内に手首を押さえ付け、リンを廊下の壁に押し付ける。固い壁に柔らかい体がぶつかり、リンがくぐもった悲鳴を上げると同時に唇がぴりと痛んだ。それすら無視して、柔らかい唇を自分のそれで無理に奪う。逃げようとする身体を押さえ込んで、深く唇を重ね続けた。
 拒絶の声を上げようと開かれた唇に、舌を差し込む。力任せに押さえ付けた身体は、俺の腕を振り払う事も出来ずにそれを受け入れた。舌が絡み合う粘着質な音と、心地良いくらいに生温いあたたかさ。背筋がぞくぞくする。リンの悲鳴ごと全てを飲み込みながら、壊れた欲望がリンを埋め尽くしていくのを、ただぼんやりと感じていた。

 「っ、や……、―――れ、ん!!」

 不意に、長らくリンの口から聞く事のなかった自分の名前が、やけにはっきりと耳に届いた。

 思わず唇が離れる。その隙に、リンは強く俺の手を振り払い、身体を押した。突き飛ばされて、後ろに一、二歩下がると、やけにリンが小さく見えた。俯いて、荒い呼吸を繰り返し、自分を抱きしめるようにして肩を震わせている。俺のリンは、こんなに弱々しい少女だったろうか。

 「……っ、なに、す」
 「何って、もう分かっただろ?」

 何を言っているのかさっぱり分からないとでも言いたげな瞳が、遠目から見ても溜まった涙で濡れていた。俺を突き飛ばしたからか、それともずっと前からなのか、細い髪は乱れてリンの額に掛かり、赤く染まった目尻を彩っている。これを、零したい、泣かせてやりたいという欲望が、今まで抑えていたものを何もかも塗り潰していく勢いで、心の中を埋め尽くしていく。けれど、それらを全て飲み込んで、極力優しく手を伸ばしてリンに触れた。びくりと大袈裟なくらいリンは身体を震わせたものの、伸ばした手は拒まれる事なく、その頬に触れる事が出来た。

 「リンが、先輩に恋して一人で苦しんでる間、俺も苦しかったよ」
 「っ、………」
 「でも、もう我慢しないから。リンが先輩の事諦めないなら、俺だって諦めない」

 頬に触れていた手を滑らせ、壁に手を付く。再び俺と壁とに挟まれても、リンはそこから逃げ出そうとはしなかった。驚愕と、拒絶、否定、疑問。様々なものがその瞳に浮かび、消えていく。全く状況の掴みきれていない瞳が、いっそ空虚さすら伴って、ただただ俺を見上げていた。苦しめ、と心のどこかの自分が囁く。苦しめ、苦しめ、と悪魔のように囁くそれは、リンに向かって囁きかけられているのかと思ったら、違った。
 リンがそこから逃げ出さないのは、ただ単に、瞳に映った俺が余りにも滑稽で哀れで苦しそうな笑顔を浮かべているからだ。優しいリンは、それを振り解けない。蛾は蝶に憧れて、空を飛んで火に焼ける。燃えた羽が苦しい。痛い。床に落ちて、キィキィ悶える俺を助けてよ。

 「リン」

 名前を呼んだ。リンは身体を震わせる。それでも、逃げなかったのはリンの方だ。リンは逃げなかった。だから俺も逃がさない。そう言い訳を繰り返して、もう一度リンに口付けた。壁に強く押し付けて、逃げ道を塞いで。リンの体が強張り、嫌だ、と腕が俺を拒む。肩を押したその爪が俺の肌に食い込んで、血が滲んでももうリンを離さなかった。俺達は所詮蝶にはなれないんだ。これ以上蝶に焦がれていたら、きっと内側から燃えて焦げて焼き尽くされてしまうに違いない。そうなる前に、早く俺の所に落ちて来て。一緒に燃えるなら怖くないから。

 やがて、リンの身体から力が抜けて、ずるりと壁伝いに力無く崩れ落ちた。落ちた、堕ちた。俺は積木を弄びながら、ずっとそれを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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【急募】リンちゃんを助ける方法



 

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