このブログは嘘で出来ています。
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なんか終わってるっぽい昔の文章を晒してみよう、その3。まだあったのか。
少年貴族なリンと野良レン。このリンたんは一応男装設定だったと思う。思想的な意味で。
少年貴族なリンと野良レン。このリンたんは一応男装設定だったと思う。思想的な意味で。
木漏れ日のような囀りを聞いた。
実際は木漏れ日なんて全く見えない、煙と雨雲に覆われた灰色の街。そのしっとりと湿った空気を辿った先の街外れに、まるで羽根でも生えてるんじゃないかと思いたくなるくらい、綺麗な少年がうずくまっていた。
(………同じ色だ)
その髪色は私と同じ。しかし、美しさで言ったら私の方が遥かに上だろう。毎日大量の銀貨と引き換えに輝かせているこの髪に比べて、少年の髪はどこか薄汚い。
きっと、良い暮らしはしていないのだろう。それどころか、人間らしい暮らしをしているのだろうか、と疑いたくなるくらい、少年の身なりはみすぼらしかった。ぼろ切れみたいなローブを身に纏い、細い肩は折れてしまいそうなくらいだ。
こんな街じゃ、ありふれた悲劇。
直に、落ちる所まで堕ちていくだろう。
「………ねえ」
私の声に、少年は顔を上げた。淀んだ蒼い瞳に、思わず息を呑む。
(また、同じ)
青白い頬に色の無い唇、落ち窪んだ眼窩。切れた唇の端から滲む赤が、より一層悲劇を引き立てている。
毎日有り余る程の財と、それに群がる愛とに囲まれている私とは、まるで正反対の容貌。なのに、まるで鏡映しのようだ。窶れ切った少年の顔は、毎朝鏡の中で見るものと同じだった。
(いや、違う)
違う。同じなんかじゃない。
私とは比べ物にならないくらいみすぼらしい少年は、私よりも遥かに、美しかった。
やつれ切った表情の中で、瞳だけは驚くほど鮮やかに、澄み切っていた。空に似た碧眼が細まる。その姿は、教会の壁画に映る天使に似ていた。
「………、」
ぽつり、と少年が微かに何か呟いた。掠れた声は、先程の歌と殆ど同じ音。ひょっとしたら彼は、歌っていた訳では無いのかも知れない。何か、叫んでいたのか、それとも嘆いていたのか。私が聞いた囀りは、彼の声そのものだったのだ。
不意にその口元がふ、と綻んだ。金色の睫毛が震える。まるで、何かを懐かしむような、親しげな瞳。こんな野良の少年に、そんな視線を向けられて私は少し困惑した。私の戸惑いとは裏腹に、少年は柔らかな微笑みを私に見せる。ひょっとしたら、これが生きる為の術なのかもしれない。
私と、さほど歳の変わらない少年。
背丈も恐らく変わらない。美しく磨きあげれば、ともすれば、綺麗な絵になるかもしれない。
「………生きたい?」
私は少年に手を伸ばした。真っ白な自分の手を、黒く汚れた少年に差し出す。
ぼんやりとした瞳で、彼は不思議そうに首を傾げた。手を握る事もしないで、ただ私の顔を見つめている。私の手を取らない男は初めてだった。
「生きたいなら、連れていってあげる」
しばらくそのままの時間が続く。少年は動かない。やがて私は落胆と共に手を下ろした。
やはり、時間の無駄か。屈めていた体を起こして、軽く息を吐く。野良に構った私が馬鹿だったのだ。きっとこいつは、何も考えてないに違いない。そう、心の中で呟いた。少しでもこの野良に心動かされた自分が、悔しくなった。
立ち上がり、その場を去ろうとした所で、不意にぐい、と腕を掴まれた。強い力に、ぐらりと足元が揺らぐ。倒れるビジョンが脳裏に浮かび、咄嗟に瞳を閉じた。しかし、思った衝撃は訪れず、代わりに暖かくて柔らかいものが、私を受け止めた。
確認するまでもなく、気付くと私は少年の腕の中にいた。後頭部辺りで、ゆっくりとした仕種で指が髪を梳く。あれだけ薄汚れていたにも関わらず、その腕の中からは浮浪者独特の匂いはしなかった。
すぐ鼻先で、ふわと少年が微笑んだ。柔らかい手つきで、背中に腕を回される。胸に頬を擦り寄せられて、顎の辺りに柔らかな髪の感触を感じた。
例え浮浪者でなくとも、異性の、しかも初対面の相手にいきなり抱きしめられるのは余り好むものじゃない。平生の私ならば、離しなさいと平手打ちと共に一喝していた事だろう。
「………おま、え」
私は何も出来なかった。
何も出来ずに、ただなされるがままに頬を擦り寄せられていた。不思議と嫌悪感は沸いて来なかった。
この少年は一体何者なのだろう。
煤の混じった空気が溢れるこの街の、片隅にうずくまる、私と同じ顔。温かい腕。囀りのような歌声。壁画の天使のような野良猫。
「……いきたいの」
そっと呟いた。私の頬に頬を擦り寄せていた少年は、ふとその言葉に反応して顔を離した。すぐ鼻先で、少年がきょとんと私を見る。
そして、柔らかく微笑んだ。
―――行きたいよ
後の事は何も考えなかった。ただ私は彼を連れて帰り、身なりを整えた。
彼は名前を持っていなかったから、私と似た名前をあげた。レン。そう呼ぶと彼は笑った。私は、部屋に天使を住まわせた。
実際は木漏れ日なんて全く見えない、煙と雨雲に覆われた灰色の街。そのしっとりと湿った空気を辿った先の街外れに、まるで羽根でも生えてるんじゃないかと思いたくなるくらい、綺麗な少年がうずくまっていた。
(………同じ色だ)
その髪色は私と同じ。しかし、美しさで言ったら私の方が遥かに上だろう。毎日大量の銀貨と引き換えに輝かせているこの髪に比べて、少年の髪はどこか薄汚い。
きっと、良い暮らしはしていないのだろう。それどころか、人間らしい暮らしをしているのだろうか、と疑いたくなるくらい、少年の身なりはみすぼらしかった。ぼろ切れみたいなローブを身に纏い、細い肩は折れてしまいそうなくらいだ。
こんな街じゃ、ありふれた悲劇。
直に、落ちる所まで堕ちていくだろう。
「………ねえ」
私の声に、少年は顔を上げた。淀んだ蒼い瞳に、思わず息を呑む。
(また、同じ)
青白い頬に色の無い唇、落ち窪んだ眼窩。切れた唇の端から滲む赤が、より一層悲劇を引き立てている。
毎日有り余る程の財と、それに群がる愛とに囲まれている私とは、まるで正反対の容貌。なのに、まるで鏡映しのようだ。窶れ切った少年の顔は、毎朝鏡の中で見るものと同じだった。
(いや、違う)
違う。同じなんかじゃない。
私とは比べ物にならないくらいみすぼらしい少年は、私よりも遥かに、美しかった。
やつれ切った表情の中で、瞳だけは驚くほど鮮やかに、澄み切っていた。空に似た碧眼が細まる。その姿は、教会の壁画に映る天使に似ていた。
「………、」
ぽつり、と少年が微かに何か呟いた。掠れた声は、先程の歌と殆ど同じ音。ひょっとしたら彼は、歌っていた訳では無いのかも知れない。何か、叫んでいたのか、それとも嘆いていたのか。私が聞いた囀りは、彼の声そのものだったのだ。
不意にその口元がふ、と綻んだ。金色の睫毛が震える。まるで、何かを懐かしむような、親しげな瞳。こんな野良の少年に、そんな視線を向けられて私は少し困惑した。私の戸惑いとは裏腹に、少年は柔らかな微笑みを私に見せる。ひょっとしたら、これが生きる為の術なのかもしれない。
私と、さほど歳の変わらない少年。
背丈も恐らく変わらない。美しく磨きあげれば、ともすれば、綺麗な絵になるかもしれない。
「………生きたい?」
私は少年に手を伸ばした。真っ白な自分の手を、黒く汚れた少年に差し出す。
ぼんやりとした瞳で、彼は不思議そうに首を傾げた。手を握る事もしないで、ただ私の顔を見つめている。私の手を取らない男は初めてだった。
「生きたいなら、連れていってあげる」
しばらくそのままの時間が続く。少年は動かない。やがて私は落胆と共に手を下ろした。
やはり、時間の無駄か。屈めていた体を起こして、軽く息を吐く。野良に構った私が馬鹿だったのだ。きっとこいつは、何も考えてないに違いない。そう、心の中で呟いた。少しでもこの野良に心動かされた自分が、悔しくなった。
立ち上がり、その場を去ろうとした所で、不意にぐい、と腕を掴まれた。強い力に、ぐらりと足元が揺らぐ。倒れるビジョンが脳裏に浮かび、咄嗟に瞳を閉じた。しかし、思った衝撃は訪れず、代わりに暖かくて柔らかいものが、私を受け止めた。
確認するまでもなく、気付くと私は少年の腕の中にいた。後頭部辺りで、ゆっくりとした仕種で指が髪を梳く。あれだけ薄汚れていたにも関わらず、その腕の中からは浮浪者独特の匂いはしなかった。
すぐ鼻先で、ふわと少年が微笑んだ。柔らかい手つきで、背中に腕を回される。胸に頬を擦り寄せられて、顎の辺りに柔らかな髪の感触を感じた。
例え浮浪者でなくとも、異性の、しかも初対面の相手にいきなり抱きしめられるのは余り好むものじゃない。平生の私ならば、離しなさいと平手打ちと共に一喝していた事だろう。
「………おま、え」
私は何も出来なかった。
何も出来ずに、ただなされるがままに頬を擦り寄せられていた。不思議と嫌悪感は沸いて来なかった。
この少年は一体何者なのだろう。
煤の混じった空気が溢れるこの街の、片隅にうずくまる、私と同じ顔。温かい腕。囀りのような歌声。壁画の天使のような野良猫。
「……いきたいの」
そっと呟いた。私の頬に頬を擦り寄せていた少年は、ふとその言葉に反応して顔を離した。すぐ鼻先で、少年がきょとんと私を見る。
そして、柔らかく微笑んだ。
―――行きたいよ
後の事は何も考えなかった。ただ私は彼を連れて帰り、身なりを整えた。
彼は名前を持っていなかったから、私と似た名前をあげた。レン。そう呼ぶと彼は笑った。私は、部屋に天使を住まわせた。
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