このブログは嘘で出来ています。
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レンリン。いつもより高い周波数でお送りしたいところですが以下略。
信号が無かった。
その交差点は四つの横断歩道があって、うち三つにはちゃんと信号が付いていた。
なのに、一つだけ。あたし達の住む真っ白なアパートメントから対向斜線上にある、真っ白なカレッジまで行くのに通る一つ目の横断歩道に、信号がない。その信号がない横断歩道を、通行人は皆ぞろぞろと、器用に車を避けて通る。なのにあたしは、車の避け方がよく分からなくて、その横断歩道を上手く渡れないでいる。
あたしがその施設に入ったのは、多分十を過ぎたくらいの頃だった。
理由は、唯一の保護者である父親が死んだから、だと思う。あたしはその事をよく覚えてなくて、ただ一つ、アイスクリームを食べていた事だけを覚えてる。
あたしにはレンっていう双子のお兄ちゃんだか弟だかよく分からない兄弟がいて、でもレンはあたしの事リンて呼ぶから、多分弟なんだろうなと思っていて、とにかくそんな子がいて。あたしはレンと二人でアイスを食べていた。
最初はちがくて、あたし達は二人ともアイスを食べてはいなかったのだけれど、あたしはアイスが食べたくなった。あたしがアイスが食べたいと言ったら、レンは食べたくないって言ったんだけど、あたしは二人でアイスを食べるのが好きだから、一緒に食べてってお願いした。そうしたら、レンは渋々ながらも一緒にアイスを食べてくれた。そうして、二人でワッフルコーンの上に乗ったアイスを食べていたのだけれど、あたしが真っ白なヴァニラに舌を突っ込んでいるうちに、父親は死んでしまったらしい。確か父親は部屋にいて、あたし達はリビングにいたと思うのだけれど、だからあたし達は二人共父親の異変に気付け無かったのだ。何せリビングにいたのだから。
それから、黒いスーツの大人が一人か二人か三人か四人かくらいやってきて、そしていなくなった。どうにもあたし達は家を出て、施設に入らなければならないらしく、それを伝えに来たらしかった。保護者の死んだ子供は施設に行くと法律で決まっているらしく、法律ならば仕方ないとあたしが大人しく玄関で靴を履いていると、側にレンがいない事に気が付いた。
玄関のすぐ隣が父親の部屋で、そこにはどうやら遺体が安置してあって、レンはそこにいるのだろうとあたしは見当を付けた。そこであたしはレンを探して父親の部屋に入ると、そこには死んだ父親の腕から、骨を刔り出しているレンの姿があった。なんて悍ましいものを見てしまったのだろうとあたしはすぐに後悔した。急に息が出来なくなって、慌てて靴を履いて家から飛び出すと、すぐにレンが後を追って来た。怖くて震えるあたしの腕をぐっと掴むと、無理に手を開かせてそこに父親の骨を置いた。よく見るとそれは白と黄色の包み紙に包まれたキャンディだった。
それからあたし達は、このあたかも自然に作られた人工的な街ですみたいな箱庭に連れて来られて、ここで暮らし始めた。真っ白なペンキで塗り潰したみたいな四角い建物がそこらかしこに置かれていて、何もかもが直線で引かれたみたいにぴっとしている。セルリアンブルーの空に、絵のような雲。あたし達はここで育った。
他にここに住んでいるのは、どれもあたしくらいの子ばかりで、男女ごとに分けられた地区で暮らしている。けれどもあたし達は一日のほとんどをカレッジで過ごしているから、男女分けの意味はあまりない。それに、ここにいる子達は、あまり他人に興味が無いみたいだ。
「レン」
あたしの住むアパートメントから、カレッジに行くには例の信号の無い横断歩道を渡らなければならない。
その横断歩道は、ちょうど正方形を歩道で作り、車道が十字になるように作られていて、アパートメントからまず一つ歩道を渡り、それからもう一つ歩道を渡らなければ、カレッジには行けない。その間、車が信号の無い横断歩道を直線でびゅんびゅん通っている。と言っても、カレッジの隣、歩道じゃない道はすぐ壁で、行き止まりだから、十字路を曲がる車は一台だってない。だから、事故は起きたことが無い。
話は戻って、この信号の無い横断歩道を渡る方法があたしには分からない。なので一人では渡れない。だからあたしは、こうして毎朝歩道の前で、レンを待つ。
レンがここに来る時間は決まってない。ただ、レンはあたしを見ると、欝陶しそうに視線を逸らしてちっと舌を打つ。そうされると、あたしはびくりと身が竦んでしまう。
レンは多分、あたしの事を嫌いだと思う。なのにレンは、カレッジにいる間絶対にあたしの側から離れない。凄く欝陶しそうなのに、あたしがうっかりレンに何も言わずに保健室とかに行くと、凄く怖い顔で追い掛けて来る。だからあたしは、レンがちょっと怖かった。
「あのね、今日ね、ちょっと図書室に行きたいの」
「なんで」
「えっと、くおちゃんがね、あたしが欲しかったCD入ったって」
レンに手を引かれながら、信号の無い横断歩道を渡る。車がびゅんびゅん通ってるのに、皆ぞろぞろと器用に渡っていく。一人だと、どうしていいのか全く分からない歩道だけど、レンに手を引かれていると不思議と安心する。多分、レンに付いていけば安心だと頭が思い込んでいるんだと思う。
レンはあっそうと頷いたきり、後は何にも言わなかった。二人無言でカレッジまで言って、無言で同じ授業を受けた。その間、レンはずっとあたしの手を握りっぱなしで、あたしはずっとレンが怒ってるんじゃないかとどきどきしていた。
それから午後の休みに入ると、あたしはレンと手を繋いだまま、図書室に向かった。図書室はぐるぐると螺旋上にずうっと上まで続いていて、その形に沿うように、真ん中を螺旋階段が伸びている。
この図書室はあたしの好きな所で、よくここに本や図鑑やCDを借りに来ている。そうしているいうちに、図書委員のくおちゃんと仲良くなって、こうして仕入の情報なんかを流して貰えるようになった。
くおちゃんの言った通り、欲しかったCDが新譜のコーナーに置いてあって、あたしは大喜びでそのCDを手に取った。透明なプラスチックの四角いケースに、黒い円盤のようなCDが入っていて、揺らすと微かにしゃらしゃらする。上機嫌になったあたしは、他にもいくつかお気に入りのディスクや本なんかを借りることにして、CDを手に立ち上がると、それまでずっと黙ってあたしの後ろにいたレンが、「それ何」と言った。
「え?」
「俺も借りる。だから教えて」
レンの言葉はいつも通りぶっきらぼうだったけど、あたしは凄く嬉しかった。あたしの好きなものに興味を持ってもらえると嬉しい。ましてや双子だから、共有するものは多ければ多い程嬉しい事だと思う。
あたしは大喜びでレンにもおんなじものを教えてあげて、おんなじものを借りて図書室を出た。
時間はもう午後が終わる所で、あたし達は家に帰らなければならなかった。相変わらずセルリアンブルーと絵みたいな雲の下で、レンに手を引かれて信号のついた横断歩道を渡る。車が横を通り過ぎ、ぞろぞろと人があたしを追い抜いていく。
途中、急にレンが振り返ると、ぎゅっと握ったもう片方の手をあたしに差し出した。不思議に思いながらも、レンが手を出したまま動こうとしないので、このままでは信号が点滅して消えてしまうので、あたしはその手の下に、自分の手を差し出す。レンの手が、ゆっくりと開かれる。
手の平に落ちて来たのは、白と黄色の包み紙に包まれた、キャンディだった。
レンはまた前を向き、あたしの手を引いて歩き出す。歩道を渡り終える。直角の道を緩やかに曲がって、信号の無い横断歩道に差し掛かる。その途端、色んなものが綻ぶように目の前をフラッシュして(キャンディの包み、父親の遺体、アイスクリームのヴァニラ)、点と線が絡み合い(レンの不器用な優しさと、信号の無い横断歩道。渡れない歩道と途切れない車)、やがて解けた。
そしてあたしは、この不思議な物語の仕掛けをほんの一部だけ理解した。
「レン」
顔を上げて、立ち止まる。繋いでいた手が、するりと解ける。顔の無い通行人が、器用に信号の無い横断歩道をぞろぞろ不器用な列を成して速やかに次々と渡っていく。車はびゅんびゅん通り過ぎる。あたしは歩道の真ん中で、びゅんびゅん通り過ぎる車は決してあたしにぶつからない。レンが振り返る。淋しそうな顔をして、レンがあたしを振り返る。
「あたしもう、死んじゃってるんだね」
車が消え、通行人が消え、歩道が消えた。
後には絵のような空と、点滅する信号機だけが残された。
+++++
『人工的な街』『絵のような(実際絵の)空』『イッツアスモールワールド』
こう言った単語に言い知れぬ恐怖みたいな何かを感じた人は『トゥルーマン・ショー』という映画を見てみればいい。
まあワードは非常に私の個人的な選抜ですが。私が某夢の国アトラクションを異様に怖がるのは多分この映画のせい。恐すぎて二回は乗っちゃう某船に乗って踊り狂う人形達を見続けるだけのアトラクション。なぜか毎回私から乗ろうと持ち掛けちゃう某直訳すると『これは小さな世界』。幻の〇国ルートがあると噂の以下略。
その交差点は四つの横断歩道があって、うち三つにはちゃんと信号が付いていた。
なのに、一つだけ。あたし達の住む真っ白なアパートメントから対向斜線上にある、真っ白なカレッジまで行くのに通る一つ目の横断歩道に、信号がない。その信号がない横断歩道を、通行人は皆ぞろぞろと、器用に車を避けて通る。なのにあたしは、車の避け方がよく分からなくて、その横断歩道を上手く渡れないでいる。
あたしがその施設に入ったのは、多分十を過ぎたくらいの頃だった。
理由は、唯一の保護者である父親が死んだから、だと思う。あたしはその事をよく覚えてなくて、ただ一つ、アイスクリームを食べていた事だけを覚えてる。
あたしにはレンっていう双子のお兄ちゃんだか弟だかよく分からない兄弟がいて、でもレンはあたしの事リンて呼ぶから、多分弟なんだろうなと思っていて、とにかくそんな子がいて。あたしはレンと二人でアイスを食べていた。
最初はちがくて、あたし達は二人ともアイスを食べてはいなかったのだけれど、あたしはアイスが食べたくなった。あたしがアイスが食べたいと言ったら、レンは食べたくないって言ったんだけど、あたしは二人でアイスを食べるのが好きだから、一緒に食べてってお願いした。そうしたら、レンは渋々ながらも一緒にアイスを食べてくれた。そうして、二人でワッフルコーンの上に乗ったアイスを食べていたのだけれど、あたしが真っ白なヴァニラに舌を突っ込んでいるうちに、父親は死んでしまったらしい。確か父親は部屋にいて、あたし達はリビングにいたと思うのだけれど、だからあたし達は二人共父親の異変に気付け無かったのだ。何せリビングにいたのだから。
それから、黒いスーツの大人が一人か二人か三人か四人かくらいやってきて、そしていなくなった。どうにもあたし達は家を出て、施設に入らなければならないらしく、それを伝えに来たらしかった。保護者の死んだ子供は施設に行くと法律で決まっているらしく、法律ならば仕方ないとあたしが大人しく玄関で靴を履いていると、側にレンがいない事に気が付いた。
玄関のすぐ隣が父親の部屋で、そこにはどうやら遺体が安置してあって、レンはそこにいるのだろうとあたしは見当を付けた。そこであたしはレンを探して父親の部屋に入ると、そこには死んだ父親の腕から、骨を刔り出しているレンの姿があった。なんて悍ましいものを見てしまったのだろうとあたしはすぐに後悔した。急に息が出来なくなって、慌てて靴を履いて家から飛び出すと、すぐにレンが後を追って来た。怖くて震えるあたしの腕をぐっと掴むと、無理に手を開かせてそこに父親の骨を置いた。よく見るとそれは白と黄色の包み紙に包まれたキャンディだった。
それからあたし達は、このあたかも自然に作られた人工的な街ですみたいな箱庭に連れて来られて、ここで暮らし始めた。真っ白なペンキで塗り潰したみたいな四角い建物がそこらかしこに置かれていて、何もかもが直線で引かれたみたいにぴっとしている。セルリアンブルーの空に、絵のような雲。あたし達はここで育った。
他にここに住んでいるのは、どれもあたしくらいの子ばかりで、男女ごとに分けられた地区で暮らしている。けれどもあたし達は一日のほとんどをカレッジで過ごしているから、男女分けの意味はあまりない。それに、ここにいる子達は、あまり他人に興味が無いみたいだ。
「レン」
あたしの住むアパートメントから、カレッジに行くには例の信号の無い横断歩道を渡らなければならない。
その横断歩道は、ちょうど正方形を歩道で作り、車道が十字になるように作られていて、アパートメントからまず一つ歩道を渡り、それからもう一つ歩道を渡らなければ、カレッジには行けない。その間、車が信号の無い横断歩道を直線でびゅんびゅん通っている。と言っても、カレッジの隣、歩道じゃない道はすぐ壁で、行き止まりだから、十字路を曲がる車は一台だってない。だから、事故は起きたことが無い。
話は戻って、この信号の無い横断歩道を渡る方法があたしには分からない。なので一人では渡れない。だからあたしは、こうして毎朝歩道の前で、レンを待つ。
レンがここに来る時間は決まってない。ただ、レンはあたしを見ると、欝陶しそうに視線を逸らしてちっと舌を打つ。そうされると、あたしはびくりと身が竦んでしまう。
レンは多分、あたしの事を嫌いだと思う。なのにレンは、カレッジにいる間絶対にあたしの側から離れない。凄く欝陶しそうなのに、あたしがうっかりレンに何も言わずに保健室とかに行くと、凄く怖い顔で追い掛けて来る。だからあたしは、レンがちょっと怖かった。
「あのね、今日ね、ちょっと図書室に行きたいの」
「なんで」
「えっと、くおちゃんがね、あたしが欲しかったCD入ったって」
レンに手を引かれながら、信号の無い横断歩道を渡る。車がびゅんびゅん通ってるのに、皆ぞろぞろと器用に渡っていく。一人だと、どうしていいのか全く分からない歩道だけど、レンに手を引かれていると不思議と安心する。多分、レンに付いていけば安心だと頭が思い込んでいるんだと思う。
レンはあっそうと頷いたきり、後は何にも言わなかった。二人無言でカレッジまで言って、無言で同じ授業を受けた。その間、レンはずっとあたしの手を握りっぱなしで、あたしはずっとレンが怒ってるんじゃないかとどきどきしていた。
それから午後の休みに入ると、あたしはレンと手を繋いだまま、図書室に向かった。図書室はぐるぐると螺旋上にずうっと上まで続いていて、その形に沿うように、真ん中を螺旋階段が伸びている。
この図書室はあたしの好きな所で、よくここに本や図鑑やCDを借りに来ている。そうしているいうちに、図書委員のくおちゃんと仲良くなって、こうして仕入の情報なんかを流して貰えるようになった。
くおちゃんの言った通り、欲しかったCDが新譜のコーナーに置いてあって、あたしは大喜びでそのCDを手に取った。透明なプラスチックの四角いケースに、黒い円盤のようなCDが入っていて、揺らすと微かにしゃらしゃらする。上機嫌になったあたしは、他にもいくつかお気に入りのディスクや本なんかを借りることにして、CDを手に立ち上がると、それまでずっと黙ってあたしの後ろにいたレンが、「それ何」と言った。
「え?」
「俺も借りる。だから教えて」
レンの言葉はいつも通りぶっきらぼうだったけど、あたしは凄く嬉しかった。あたしの好きなものに興味を持ってもらえると嬉しい。ましてや双子だから、共有するものは多ければ多い程嬉しい事だと思う。
あたしは大喜びでレンにもおんなじものを教えてあげて、おんなじものを借りて図書室を出た。
時間はもう午後が終わる所で、あたし達は家に帰らなければならなかった。相変わらずセルリアンブルーと絵みたいな雲の下で、レンに手を引かれて信号のついた横断歩道を渡る。車が横を通り過ぎ、ぞろぞろと人があたしを追い抜いていく。
途中、急にレンが振り返ると、ぎゅっと握ったもう片方の手をあたしに差し出した。不思議に思いながらも、レンが手を出したまま動こうとしないので、このままでは信号が点滅して消えてしまうので、あたしはその手の下に、自分の手を差し出す。レンの手が、ゆっくりと開かれる。
手の平に落ちて来たのは、白と黄色の包み紙に包まれた、キャンディだった。
レンはまた前を向き、あたしの手を引いて歩き出す。歩道を渡り終える。直角の道を緩やかに曲がって、信号の無い横断歩道に差し掛かる。その途端、色んなものが綻ぶように目の前をフラッシュして(キャンディの包み、父親の遺体、アイスクリームのヴァニラ)、点と線が絡み合い(レンの不器用な優しさと、信号の無い横断歩道。渡れない歩道と途切れない車)、やがて解けた。
そしてあたしは、この不思議な物語の仕掛けをほんの一部だけ理解した。
「レン」
顔を上げて、立ち止まる。繋いでいた手が、するりと解ける。顔の無い通行人が、器用に信号の無い横断歩道をぞろぞろ不器用な列を成して速やかに次々と渡っていく。車はびゅんびゅん通り過ぎる。あたしは歩道の真ん中で、びゅんびゅん通り過ぎる車は決してあたしにぶつからない。レンが振り返る。淋しそうな顔をして、レンがあたしを振り返る。
「あたしもう、死んじゃってるんだね」
車が消え、通行人が消え、歩道が消えた。
後には絵のような空と、点滅する信号機だけが残された。
+++++
『人工的な街』『絵のような(実際絵の)空』『イッツアスモールワールド』
こう言った単語に言い知れぬ恐怖みたいな何かを感じた人は『トゥルーマン・ショー』という映画を見てみればいい。
まあワードは非常に私の個人的な選抜ですが。私が某夢の国アトラクションを異様に怖がるのは多分この映画のせい。恐すぎて二回は乗っちゃう某船に乗って踊り狂う人形達を見続けるだけのアトラクション。なぜか毎回私から乗ろうと持ち掛けちゃう某直訳すると『これは小さな世界』。幻の〇国ルートがあると噂の以下略。
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