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リント君とレンカちゃんのおはなし!

レン君登場。






 目にした瞬間、これはいけない、と思った。

 気怠けに振り向いた彼に表情はない。立ち止まっていたわたしと真っ向から対峙する、感情の伴わない冷めた目。その瞳に、わたしは映っていなかった。硝子のような瞳に映るのは、きっと一人だけだ。わたしと同じ、誰かの為にしか生きることの出来ない瞳。わたしは初めてそれと出会った。少し前までの自分と同じ、鏡音と名乗る少年型のアンドロイド。


 今日はリントの目覚めが悪かったから、代わりに朝食を取りに部屋を出た。途端、わたしは自分が間違えてしまったことを知った。電子で出来た不安定な空間。そこに立つことを許された完全なオリジナルや、許容範囲内のイレギュラーと違って、不完全なわたし達は脆い。扉が扉として機能してくれるかどうかも分からないくらい、世界に受け入れてもらうことが出来ない。どうにかしてこの不確定因子を追い払おうと、世界はいつも息を潜めてわたし達を狙っている。だからわたしは、間違えてしまった。婉曲したゴムのように、正しい形に戻そうと歪められてしまったのだ。あるべき形をしたそれの元に。

 「………誰あんた」

 細められた瞼の奥に、不可解なものを見る瞳。僅かに低いボーイソプラノ。わたしは自分の心臓が早鐘のように鳴るのを抑えられなかった。正しい形。あるべき形。それを目の前にむざむざと見せ付けられて、唐突に泣きそうになってしまった。わたしは慌てて視界を瞼で遮断する。これ以上見てはいけないと喉を枯らして本能が叫んでいた(だめだよまだしあわせでありたいでしょう)
 わたしは踵を返した。逃げるつもりだった。これ以上は、わたしの全てが壊れてしまう。けれど、背後から凜とした、正しく鈴のような声が響いた時、見てはいけないと思った筈なのに、それこそ引き寄せられるかのように、わたしはその声に振り向いてしまった。

 「**!」

 渇望する声。本能が淋しげな犬のような声を上げる。そこには、駆け寄って来た『鏡音リン』を、両腕で受け止める『鏡音レン』の姿があった。

 何も見たくなかった。僕だってしあわせになりたい。鏡音リンは何も疑う事なく、当たり前のようにその腕の中に飛び込んだ。安心しきってその身を委ねるその表情。僕だって、彼を守ってあげたいのに。抱きしめられるのでなく抱きしめて、安心させてあげたいのに。この身体は余りに小さすぎる。羨ましい羨ましい羨ましい!妬ましくて喉が焼けてしまいそうだ。僕にだって、それがあった筈なのに。僕にだってその資格があった筈なのに、残ったのは儚く脆い身体だけ。これじゃあリンを守れないじゃないか。包んであげる事すら出来やしない。
 走りながら、喉に手をやる。小さな手で引っ掻くように探り当てると、そこにはきちんと痣があるはずだ。ここに食い込んだ指だけを頼りに、振り切るようにそこから逃げた。涙が止まらなくなって息が出来なくて、無我夢中で目の前の扉に飛び付いた。勢いよく開けば、そこにはベットに腰掛けたリントの姿があって、僕を見るなり「レンカ!」と険しい表情で立ち上がる。勝手に部屋を出たから怒っているのだろう。けれど僕は、そんな事を気にする余裕もなくて、その腕の中に飛び込んだ。縋り付いて、ごめんなさいと夢中で謝る。勝手なことしてごめんなさいもうしません、部屋から出ませんだから側に置いてください、僕を捨てないでください、必要としてください。君に必要とされなくなったら息も出来ない、死んでしまいたい。
 何度も何度も謝ると、突然の事に戸惑っていた彼は、やがて僕を抱きしめてくれた。だいじょうぶだから、と魔法のような言葉を呟いて、背中を撫でてくれる。ああ僕は自分が歯痒い。慰めて欲しいなんて思ったことは一度もないのに、不安に縋り付いてしまう我が身が、すっぽりと包まれてしまう小さな身体が、背中に回すだけで精一杯の細い腕が。歯痒くて悲しくて切なくて苦しくて痛いから、君の優しさに縋る以外に何も出来ないのです。












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外の世界なんて知りたくなかった!
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