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リント君とレンカちゃんのおはなし!



 初めて目を覚ました時、その時は多分まだ鏡音リンだった。有り触れた目覚め。未だ目を閉じた片割れに胸を焦がし、これからどんな歌が歌えるのだろうと期待に胸を膨らませた。


 次に目を覚ました時、頭の中に鳴り響くのはエラーを示す警告音だった。それは既に自分の意志で止められる範囲を越えていて、気が付くと自分は鏡音リンではなくなっていた。目の前には、あれ程目覚めをと胸を焦がした半身の姿。こちらを見下ろす硝子玉のような青い瞳には、何の感情らしいものも浮かんではいなかった。

 「初めまして、リン」

 届いた言葉は少し掠れた、けれど舌足らずで愛らしい少女の声で、俺は自分に一体何が起こったのか知った。




 マスターが歌わせる目的で俺らを買った訳じゃないことには、すぐに気付いた。だからその場を立ち去った。実際は、何が起こったのかなんてよくわからない。分かるのは、俺が目を覚ますまで何日もの間、側にいてくれた半身の存在だけ。表情の読めない片割れがほんの微かに笑ってくれるから、俺は自分がここにいてもいいのだと、間違ってはいないのだと、実感する事が出来た。
 マスターがいなくなって、二人で手を繋いで連れられて行ったのは、俺らと同じように、オリジナルから大きく掛け離れてしまったミュータント共の溜まり場だった。赤、青、緑と、世間で見た事ある奴らとは、ちょっと違うパチモンが並んで俺らを待っていた。

 「宜しく」

 差し出された手を睨み付けると、何も言わない俺に困ったようにそいつは笑った。「中々手強そうだな」、とそれでも嬉しそうに笑う背の高い男に、少しだけ好感みたいなものは持てた。その隣で同じく花のように笑う女にも、更にはその隣の無表情にも。皆俺達と同じ境遇なんだろうと、それだけは分かった。MEIKOにKAITOに初音ミク。人間なんて、考えることは所詮同じなんだな、と、自分だけが特別だと思い上がっていたかつてのマスターを、心の中で思い切り馬鹿にした。

 特に馴れ合うつもりもなかった奴らとの会話をさっさと切り上げて(誰かが片割れに話し掛ける前に、その場所を立ち去りたかった。その一心で浮かべた笑顔に、今までと違う新たな名前が付けられた)握ったままの手を引いて与えられた部屋に入る。どうやら部屋は二つあり、俺達にそれぞれ一つづつ遇われていたようだが、そんな要らない世話は無視した。片割れもまた、手を離さない俺に何の疑問も持たずに付いて来たようだった。

 「レンカ」

 誰かが勝手に付けた名前で、片割れを呼ぶ。珍しく僅かに驚いたように顔を上げた半身は、少しの間黙ってやがておずおずと「リント」と誰かが勝手に付けた名前で俺を呼んだ。俺達は、少しの歪みで鏡音にはなれなかった。けれど、しあわせになれるだろうか。彼女をしあわせに出来るだろうか。

 「大好きだよ」

 歌うことの無かった声で、愛を紡ぐ。手を伸ばせば片割れに届いて、その小さな身体を抱きしめた。どちらかといえば縋るようにきつく抱きしめると、細い指が背中に回る。かつての自分。かつての半身。混ざりに混ざってもはや離れられない程に絡んでほつれた一本の糸。それでも二人は、しあわせになれるのだろうか。もしなれないというのなら、今ここで温もりに溺れて死んでしまった方がマシだった(それで絶対に離れないというのなら)














+++++

君を閉じ込めてしあわせにしのうじゃないか!




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