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リント君とレンカちゃんのおはなし!

※緩い暴力表現あり




 殴る、

 「ごめんなさい」

 殴る、

 「ごめんなさい」

 殴る。



 その度に、何も悪くないのにレンカは謝る。いつも通りの無表情で、感情を滲ませない硝子の瞳に俺を映して。痣だらけになった痛ましい身体で、ただただ俺に謝り続ける。

 「ごめんなさい」
 「―――っ゛、なん、でっ」
 「ごめんなさい、」

 ベットの軋む音がして、レンカが体を起こしたのが分かった。白い体の、普段晒される事のない腕や腹部に、痛々しい青い内出血の痕。唇の端に血が滲んでいる。そして何より、細い首にはっきりと残った、出来たばかりの青黒い痣。普段レンカは首に包帯を巻いている。けれどその下、刻まれた痕は消えることが無い。消える前に、また俺が絞めてしまうから。

 「なんでっ、謝ん、だよ……お前っ、わるくないじゃん……ッ!」
 「……ごめんなさい」

 ベットがまた軋む。膝を抱えて子供のように泣きじゃくる俺の髪に、細い指が触れた。慰めるように、愛おしむように髪を梳く指先に、また涙が込み上げる。不安なんだ。君がいなくなってしまいそうで。その瞳に俺以外の姿が映ったらと考えたら、気が狂ってしまいそうだ!(その瞳に映ることその瞳に反射されること)(それだけがこの弱々しい世界と存在の定義なのに)

 泣き止まない俺にやがてまた、小さく彼女は謝った。細い腕が肩を包み、頭を引き寄せられるようにして、その胸に抱き寄せられる。もたれ掛かったら壊れてしまいそうな程儚い身体。それを守らなければならない筈なのに、どうして俺にはそれが出来ない。かつてマスターと呼んでいた男の部屋を思い出す。あの狭く噎せ返るような部屋で、あの男は神だった。あの男はもういない。なのにまだ、この秘密の色濃く香る箱庭で、彼女は同じ鎖に縛られ続けている。神様は白い身体がお好きなようだ。そこまで考えて、はは、と乾いた嘲笑が零れた。なんだ俺も同類じゃないか。彼女がここから出ようなんて考えない為に、痛みで繋いで閉じ込める俺も。

 「レンカ、レンカ、れんか」
 「ここにいます。ちゃんとここにいます、ごめんなさい」
 「れん、か、レン」

 かつて、レンカに印された赤い花はもう消えた。なのに今度は、青い花びらがちりばめられている。その傷痕が、悍ましい筈なのに綺麗に思えて、その胸に顔を埋めた。微かに聞こえる血液を流すその音が、まるで死へと誘うカウントダウンだった。彼女は生きながらに死んでいる。生を刻む音なのに、その度死に近付いていく。なんて人間らしいんだろう!俺達は人ですらないというのに。なんだかそれがどうしようもなく面白くて、いつしか乾いた笑いは止まらなくなった。レンカはそれを、驚くでもなく受け止める。傷だらけの小さな身体に、甘えるように擦り寄った。

 「いなく、ならないでね」

 くぐもった声でそれだけ言うと、初めてレンカは謝るのを止めた。代わりに、いつも何も表さない能面のような顔が、それはそれは嬉しそうに、しあわせそうに笑った。勿論、と深く頷いた事に満足して、やがて訪れるであろう穏やかな眠りに身を委ねようと瞳を閉じた。目覚めたら、また彼女の首を絞めるのだろうと思いながら。















+++++

それでも帰る場所はここしかないよ


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