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リント君とメイトさんのおはなし。

 「だって、偽物じゃないか。俺も、あんた達も」

 気難しげに寄せられた眉に、僅かに尖らせた唇は、どちらかと言うと拗ねているようだった。元が随分幼い顔立ちをしているのだから、その表情はよく似合う。つい先程まで興味深げに手元を覗いていたと思えば、くるりと瞳が瞼の裏を回る内に、既に表情を変えている。少年らしい気まぐれな態度は、決してメイトを不愉快にはしなかった。彼の、もう片方の片割れもまた、歳相応にくるくる変わる表情くらい持っていればいいのに、とメイトはそっと考える。しかし、それを口に出す程に、彼は愚かではなかった。また、優しくもない。
 そうだね、と楽譜をめくりながら、肯定とも否定とも取れない答えを穏やかに返すと、彼は益々不機嫌そうな顔をする。わっかんねぇな、と零す仕種は、オリジナルに似ているとも取れなくはなかった(オリジナルの少女には会った事が無かったが)。白い髪留めで止められた、長めの前髪の端を欝陶しそうに弄びながら、リントは立てた膝の上に足を顎を乗せる。椅子の上では、随分と行儀の悪い体勢だが、それを少年らしさの特権と前向きに受け止めて、メイトはただ失笑を零すだけに留めた。

 「なんで歌なんかに固執するんだ?どうせ俺らには、歌なんか歌えねえじゃん。オリジナルじゃなくなる時に声なんか捨てちまっただろ」

 メイトの手元の楽譜が余程気に食わないのか、呆れたように瞼を半分下ろす姿は、相変わらずメイトに好印象のみを与えていた。元々、部屋から出て来る事の少ない弟だ。こうやって話をしてみると、なんだ普通の子供ではないかと、メイトを安心させる。今頃、唯一の妹であるレンカに手を掛けているであろうカイコも、同じ事を考えているといいが。感受性が豊かと言えば良いが、良くも悪くも他人の言葉に影響を受けやすい彼女が傷付く所は、余り見たくない。

 「別に歌を歌おうっていうんじゃないよ。これは『MEIKO』の楽譜だ」
 「………『MEIKO』」
 「そう。俺のオリジナル。彼女が、一体この歌にどんな想いを込めたのか、それが知りたいだけなんだよ」

 子供に言い聞かせるように、優しく諭したメイトに、リントは若干気分を害したようだった。ふいとそっぽを向いたきり、椅子の上で黙りこくってしまう。おや、とメイトは首を傾げて、どうやら自分は何か気に障る事をしてしまったらしいと、また失笑する。笑顔は、彼の癖だった。嬉しい時も、悲しい時も。苛立ちを隠している時も平静そのものである時も、彼はいつでも唇に穏やかな笑みを浮かべている。その笑顔の無意味さに、リントは気が付いていた。気付いてなお、それを好ましいと思っていた。つまり、メイトの笑顔は無表情と一緒だ。けれど、味気ないそれを、1番誰の目にも付かない方法で押し隠す術を持つ彼は、リントにとって理想と出来る大人の像だった。勿論この感情が、彼のオリジナルたる少女が、メイトのオリジナルに抱いているそれと似ていた事を、リントは知らない。

 「拗ねるなよ。お前にもいつか、分かる時が来るさ」
 「……子供扱いすんなし」
 「俺から見れば、お前もレンカも十分子供だよ」
 「そもそも、俺ら成長なんかしねえじゃん。じゃ俺は一生子供かよ」

 不機嫌の理由はそこにあったのか、と、メイト思わず声を上げて笑いそうになる。けれど、これ以上拗ねてまた部屋に引きこもられては堪らないので、くつくつと肩を揺らすに留まった。むっとしたように再び視線を戻したリントに、メイトは穏やかな笑みを向ける。それは彼がいつも浮かべる笑みとは違い、確かな意味を持つものだった。しかし、その意味がきちんと伝わったかどうかは、メイトには分からない。

 「お前も、たまには外の世界を見てみるといい。オリジナルがどんな歌を歌ってるのか、一度ちゃんと聞いてみれば、世界はもう少しマシに見える」

 少なくとも、お前が思っているよりは。そう付け加えてから、メイトは再び視線を楽譜に戻した。幾重にも面なる五線譜と音譜は、彼等には余りに無関心だ。それを、記録として頭の中で辿る事は出来ても、メイトの喉は決して歌を紡がない。そもそも、『彼女』の音は、彼が出すには高すぎる。かつては、自分もこんな歌を歌っていたのだろうか、と少しの間リントから意識を逸らして、メイトは自分の記憶を手繰り寄せた。けれど、思い出せるのは耳をつんざく緊急信号のみで、メイトに歌なんて与えなかった。

 メイトが再びリントに意識を戻すと、彼は何を言うでもなくただ黙っていた。明後日の方向を向く横顔が、どこと無く思案に耽るようにも見える。リントは世界を怖がっていると、メイトはそう思っていた。元々、鏡に反射した音を対として、七色に輝くそれと引き換えに不安定さを持ち合わせたボーカロイドがオリジナルだ。リントの中には、乱反射したいくつもの顔が散らばっている。時にそれは、酷く暴力的な衝動となり、はけ口を探してさ迷う事になる。それが一体どういう事か、メイトにはよく分かっていた。けれど、分からないのは、破片を拾い集める彼女の事だ。
 リントは、確かに自分を御し切れない所はあるが、それをたった一人の半身に押し付ける程間違った道を好まない。衝動は、あくまで『鏡音リン』というオリジナルから引き継いだもので、彼の内面を表すものではない。けれど、リントが外の世界に踏み出そうとしないのは、やはりメイトに測り切れない何か、鏡の向こうで眠りについた、閉じられた世界の住人だけが知っている事なのだろうか。

 くだらね、と、それだけ呟いて、リントは立ち上がった。「どこに行くんだ?」と声を掛けたメイトには、「昼寝」とだけぞんざいに、けれど邪険にする事なく素直に答えた。

 「お前、基本的に夜以外は寝ないんじゃないのか」
 「昨日の夜レンカに起こされたからねみぃんだよ。どうせあいつも寝てるだろうから、夕飯いらね。部屋で食べる」

 カイコも結局逃げられたのか、とこれには本当にメイトも失笑しか出来なかった。てくてくと扉まで歩いていくリントの背中に、思わず何か声をかけようとして、止める。一体何を問い掛けようと言うのだろう。血液というものが流れていない以上、彼等は本当だろうが偽物だろうが、『家族』になるのは難しい。レプリカの、レプリカ。歌を無くしたボーカロイドは、存在価値すら見出だせないまま、薄い絆に縋り付いている。
 けれどメイトは、それで良いと思っていた。家族とは、分かり合うものではない。ただ、受け止めるものだ。問題児の『弟』の背中を見つめ、兄は仕方なさそうに、優しく諦めた笑みを見せた。それと同じ笑顔を、オリジナルの彼女も浮かべている事を、やはりメイトは知らなかった。

 

 

 

 

 

+++++

オリジナルオリジナル言ってるけれど別に特定のボカロから亜種が生まれた訳でも元にされた訳でも何でもないのですが。でもあくまでin俺の脳内なので、性転換亜種達はデフォ家ボカロの性転換で考えてます。ミクオ君だけは別。だからクオミクが成立するのです。

 

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