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リントくんとレンカちゃんのおはなし!


→ハッピーエンドを探しに



 


 「レン」

 鈴の鳴るような、軽やかな声が名前を呼んだ。
 声のした方に顔を向ければ、小鳥のような柔らかな髪が、ふわふわと揺れているのが見えた。それは楽しげに曲線を描きながら、ほっそりとした顎から首筋に掛けてまでを覆っている。金が反射した唇が眩しかった。短い丈のセーラーから、ほっそりとした白い手足を覗が覗き、僕はそれが誰なのか、生まれる前から知っている事を理解した。

 「  」

 動かした筈の僕の唇は、吐息に近い音を吐き出すだけに留まった。声がでない。そんな僕の代わりに、リンはまた繰り返し僕の名前を呼んで、笑った。まるで花びらのような笑顔だった。

 辺り一面を覆う、眩しいくらいの白い明かりに、僕は思わず掌を翳す。そこにあるのは、見た事があるようでないような、僕の手だった。ここがどこかも分からないまま、視界の端で黒いハーフパンツの裾が翻るのが見えた。リンは、相変わらずにこにこと笑っている。白いリボンがひらひらと揺れる度、うっすらと細められた大きな瞳に影が落ちる。けれど、鮮やかな空色は一切の陰りを見せずに、むしろ一層水面の内側を透かしたように輝くみたいだった。僕は、自然と手を伸ばす。僕の前で無邪気に笑う、小さな花のような女の子に、腕を広げた。リンは、花が咲くように可愛らしい顔を綻ばせて、僕を見て、僕に微笑みかけて、リンは。僕が守りたいたった一人の女の子は、子猫のように華奢で柔らかい身体の小さな女の子は、それとは違う僕の腕の中で、僕は

 




 しあわせな夢はそこで終わった。僕は、息が詰まるような悲鳴を上げる。声は出なかった。慌てて跳び起きれば、生温いものが頬を濡らす。不吉な夜に静まり返った部屋の中で、僕は声も立てずに泣いていた。
 夢の残滓を掻き集めるように震える掌を広げても、そこにはただ悲しみが息を潜めているだけだった。暗がりでも分かる、頼りなげに震える小さな両手。その余りの小ささに、僕はまた自分が叶う事の無い幸福な夢を見ていたのだと思い知る。ああ、と小さな声が漏れて、僕は堪らずにか細い両手で顔を覆った。ああ、ああ!断続的に零れる小さな呻きは、やがて鳴咽に成り代わる。抱き留めた感触は、まだ手の中に残っているのに。真綿のような柔らかさも子猫のような暖かさも、残らず覚えている筈なのに、もうかけらすら見当たらない。僕のリンは何処に行ったの?見付からない、届かないのは、僕がリンには不完全だからだ。僕はリンを守れない。だからリンは、一人で自分を守るしかなかったんだ。

 「レンカ?」

 暗がりの中から、リントの声が聞こえる。両手で瞼を覆っているから、僕にはその姿が見えない。見えないんだ。僕は、僕のリンの姿が見えない。すぐ側にいなくてはならないのに、誰より近くにいなければならないのに、僕は暗闇の中でがむしゃらに手を伸ばす事すら出来なかった。

 「なんでお前、泣いてんの。どうした、レンカ?」

 リントの眠りはいつでも深かった。きっと夢を見ないに違いない。けれど今、リントは目覚める筈のない真夜中に、困惑しながらもその瞳にまっすぐ僕を見据えているのだった。僕は瞼を覆ったまま、リントに嘘を吐く事も出来ない。僕のリンは、間違いなく彼なのに。ああ、でも、塗り潰したような空色の瞳が、淡い光彩を無くして強い光を持ったそれが、無言のままに僕を責めているようだった。こうなったのはお前のせいだと、優しく笑った夢の少女が、今は無表情に僕を見据える。

 ごめんなさい、と呟いた。いつの間にか、悲鳴は鳴咽に成り代わり、わたしは繰り返しリントに謝る。あなたのレンになれなくてごめんなさい。これだけか細い両腕で、逆に縋り付いてごめんなさい。君の幸せを望むなら、本当に幸福になって欲しいなら、僕は手を離さなければならないのに。それでも、存在に飢えた自分がまだ、縋り付くのを止められない。僕はまだ僕を手放せない。僕はまだ、向日葵のように笑うあの子を諦める事が出来ない。


 泣き止まない僕に、やがて困ったように僕の肩を撫でていた掌が無くなった。リントは、恐らく悲しげな目をして僕を見下ろしていただろう。彼の掌が行き場を無くし、やがてきつく握られる。そんな様子が見えなくても分かるのに、僕は顔をあげる事すら出来なかった。きっと彼は、気付いてしまったんだ。まるで憐れな泣き声と、母を求める迷子の腕に。僕は泣き止まなければならない。僕の存在は今こそ、今こそ果たさなければならない役目があるのに。僕はリントを見上げなければならない。僕は僕である事を止め、『わたし』が、リントに微笑みかけなくてはならないのに。その為に必要な『わたし』なのに。わたしはまだ、リントに微笑む事すら出来ずに息を潜めている。リントの前で、固く瞼を閉じて沈黙している。


 『僕』が『リン』を求める限り、『わたし』は『リント』を否定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++


苦しめるならせめて悪夢を!

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